研究課題/領域番号 |
23592953
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松沢 祐介 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30351620)
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研究分担者 |
樋田 京子 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 特任准教授 (40399952)
大賀 則孝 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 特任助教 (40548202)
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キーワード | 抗酸化物質 / 口腔癌 / 活性酸素 |
研究概要 |
様々な環境要因からの活性酸素が、癌の発症や進展に関与していると考えられている。口腔内は細菌感染、喫煙、熱刺激、香辛料刺激、機械的ストレスなど、活性酸素が発生しやすい環境である。 腫瘍微小環境の炎症細胞は、さまざまなメディエーターを放出し、癌の悪性化の進展の実行役であることが知られてきている。しかし、炎症細胞の他に腫瘍微小環境の間質を構成する腫瘍血管内皮細胞 (TEC:tumor endothelial cell)の活性酸素による癌の悪性化への影響を検討した報告はみられない。我々はこれまで腫瘍血管内皮細胞(Tumor Endothelial Cells: TEC)が正常血管内皮細胞(Normal Endothelial Cells: NEC)と比較して、①薬剤抵抗性を有する②特異的な遺伝子の発現する③遺伝子異常・染色体不安性があるなどさまざまな点で異なることが報告してきた。 H23年度、申請者らは腫瘍血管内皮細胞の染色体異常、核異型などの染色体不安定性に、腫瘍血管内皮細胞が産生する活性酸素が関与しているのではないかと仮説をたて、実験を進めた。その結果、TECとNECにおける細胞内活性酸素量の測定したところ、NECに比べ、TECにおいてROSの産生量が高かった。またNECを低酸素ストレス(1%O2)下で培養すると、定常酸素状態(20%O2)に比べROSの産生が高いことがわかった。腫瘍間質を構成する腫瘍血管は血管内皮細胞同士の結合が疎で、組織間圧が上昇し、有効な血液循環が得られていないため、部分的に低酸素に曝されていることが知られてきている。そこで、H24年度、我々が分離してきた腫瘍間質を構成する腫瘍血管内皮細胞がin vivoで低酸素に曝されているのかを免疫染色を用いて検討した。加えて低酸素培養下の血管内皮細胞内の活性酸素の蓄積が、抗酸化物質により抑えられるかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍血管内皮細胞を実際に分離した腫瘍組織(ヒト腫瘍細胞のヌードマウス皮下移植モデル)における低酸素領域を可視化するために、ピモニダゾール染色ならびにCA9染色を行った。実際には担癌マウスにpimonidazoleを注射し、摘出した腫瘍塊を用いて、血管内皮マーカーであるCD31とpimonidazole染色を行った.腫瘍内ではびまん性に低酸素領域が認められ,一部の腫瘍血管周囲でHypoxia領域が認められた.また、血管の成熟度を検討するために、血管をCD31、ペリサイトをαSMAで染色したところ、低酸素部位の周囲の血管内皮細胞はペリサイトの被覆が少なかった。これらのことから、腫瘍微小環境において、一部の腫瘍血管は、有効な血液循環が得られていないため低酸素状態に陥っていることが示唆された。 次に、2’, 7’-Dichlorodihydrofluorescin diacetate (DCFH-DA)を用いて、腫瘍血管内皮細胞内のROSの量をフローサイトメーターを用いて解析した。今回用いた細胞浸透性蛍光プロー ブ DCFH-DAは、細胞内の活性酸素によりDCFに酸化され蛍光を発するシステムであり、その蛍光強度は細胞質内のROSレベルに比例する。H23年度、NECに比べ、TECにおいてROSの蓄積が高いこと示した。これらは他施設の最近の研究でも一致している(Kubota 2012 Nature)。 H24年度は、抗酸化物質として広く知られている緑茶カテキンEGCG (エピガロカテキンガレート) やNACが低酸素下培養下で培養されたヒト血管(HMVEC)におけるROSの蓄積を抑えるか検討した。EGCGとNACによりHMVECを処理すると,Hypoxiaにより引き起こされるROSの上昇が抑えられた。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度以降では正常血管内皮に比べ、1)腫瘍血管内皮において活性酸素が高いことや2)低酸素ストレスで、正常血管内皮における活性酸素が上昇することのメカニズム解明のための基礎的研究を行う予定である。ROSの上昇に、血管内皮のおけるVEGF-VEGF-R シグナリングが関与しているとの報告が最近みられる。H25年度は、腫瘍内の低酸素環境が1)正常血管内皮細胞(HMVEC)に染色体異常をもたらすのか、2)もし染色体異常をもたらした場合、抗酸化物質として広く知られている緑茶カテキンEGCG (エピガロカテキンガレート)、NAC により染色体異常が抑制されるかについて検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、ヌードマウス皮下移植塊からの血管内皮細胞の分離・培養が効率よく成功したため、マウスの一部分を購入する必要なくなった。また、腫瘍組織における低酸素状態の解析のため、複数の低酸素マーカーを用いて、解析を予定していたが、最初に試みたピモニダゾールで、安定して効率よく、低酸素状態の解析を行うことができた。 そのため追加で他の解析試薬を購入する必要がなかったため未使用額が発生した。腫瘍から分離した血管内皮細胞の性質を解析するための初代培養を継続的に行うには、高価な培地を必要とする。H25年度はさらにフローサイトメーター用の精度管理ビーズやフロー液、蛍光付き抗体などの高価な試薬が必要である。未使用額は、上記の試薬等の購入に用いたいと考えている。
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