従来のDNA、RNAを標的とする抗癌剤と異なり、EGFRなどの細胞の増殖シグナルを標的とした新しい分子標的薬の有効性が報告されている。口腔癌の治療にこのような薬剤を含めた化学療法と放射線、手術療法が併用されているが、有効な治療法が確立されていない。その理由の一つに癌細胞による腫瘍免疫回避メカニズムが挙げられる。NK細胞から分泌されるIFNGはそれ自身が抗腫瘍活性を示し、細胞傷害性T細胞の活性化など抗腫瘍免疫においても重要である。これが腫瘍細胞内の特定の酵素によって分解される機構を検討した。平成25年度は以下の内容に取り組み成果をあげた。口腔癌細胞株および肺癌細胞株(HSC-2、HSC-3、HSC-4、SAS、A549)を用い、IFNG分解責任酵素の解析を行なった。各培養細胞にIFNG、IFNG分解酵素(TACE)の低分子阻害剤(TAPI2)および中和抗体(a-TACE Ab)を加え、IFNG濃度変化やマイクロアレイによるmRNA発現比較を行なった。【結果】腫瘍細胞の培養系においてIFNGの濃度減少が見られた。各細胞のTACEのmRNA発現には差がみられ、IFNG濃度が低下した細胞株ではTACEの発現が高かった。TAPI2およびのa-TACE Abの添加によりIFNGの濃度上昇に各細胞間の差を認めた。mRNA発現比較ではIFNG分解にTACE以外の他の酵素が関わっている可能性、また、EGFR下流のKRAS遺伝子の関与が示唆された。【研究の成果】口腔癌の免疫回避メカニズムに、腫瘍細胞自身が産生する酵素で、IFNG活性阻害により腫瘍免疫の減弱される可能性が認められた。またその酵素は腫瘍細胞それぞれで感受性が異なり、その発現量と予後不良度が相関しているという報告もある。このことから本研究のIFNG分解責任酵素の同定と解析は、腫瘍免疫回避を阻止する新規の抗腫瘍療法の開発に期待される。
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