研究概要 |
CEA family は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、免疫、脈管形成、アポトーシス、腫瘍抑制、転移に関与するとされ、細胞接着タンパクとしても機能する。本研究では、口腔扁平上皮癌細胞とその周囲間葉系細胞におけるCEA familyの役割を、特に浸潤・転移との関係で調べ、治療のターゲット遺伝子になる可能性を検討した。CEA familyのうち、CEACAM1,3,4,5,6,7,8の口腔扁平上皮癌における発現を検討したところ、mRNAおよびタンパクレベルにおいてCEACAM1遺伝子の発現が有意に低下していた。臨床検体におけるCEACAM1の発現を免疫組織染色法にて比較したところ、正常上皮細胞で増強、扁平上皮癌で顕著な減弱を示し、さらに発現強度と腫瘍径、進展度(stage)との間に逆の相関関係を認めた。分子生物学的機能解析のため、CEACAM1全長cDNAを搭載した発現ベクターを口腔扁平上皮癌由来細胞株に導入し、それらのCEACAM1強制発現株を用いてproliferation assay、invasion assay、wound healing assayを行った。その結果、CEACAM1遺伝子が、癌細胞の増殖能と浸潤能を低下させることが明らかになった。さらにCEACAM1を強制発現させた口腔扁平上皮癌細胞株を用いて正常線維芽細胞と共培養を行い、癌細胞が正常細胞に与える影響を調べたところ、正常線維芽細胞のCEACAM1の発現上昇を認めた。CEACAM1はWnt経路の制御因子であるため、代表的な遺伝子(CCND1, CDNK1, MYC)の発現を調べたところ、いずれも発現低下していた。臨床検体ではCEACAM1遺伝子が腫瘍部で発現減弱、周囲組織で増強していたことから、周囲正常組織がCEACAM1を分泌することで腫瘍細胞の増殖を抑制している可能性が示唆された。
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