研究課題
我々はこれまで,2種類の口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞株SASとCa9-22に対して、5-FU濃度を徐々に上げながら持続的に5-FU暴露させ、2年間かけて両者の5-FU耐性株(SAS/FR2とCa9-22/FR2)を樹立した。次に、これら2種類の5-FU耐性株とそれらの親株を用いて、miRNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、miR-30aのシグナル値とその発現変動が最も大きく、miR-30aがOSCCの5-FU耐性化機構に関与していることが示唆された。そこで、OSCC細胞株の親株であるSASにmiR-30a mimicを過剰発現させて5-FUに対する薬剤感受性アッセイを行った結果、SASの5-FUに対するIC50は上昇し、5-FUに対する耐性度の上昇が確認された。一方、以前、われわれは、抗アポトーシスタンパクであるcIAP2の高発現がOSCC細胞の5-FU耐性に関与することを報告した(Nagata et al., Br J Cancer, 2011)。cIAP2が転写因子NF-kBによって遺伝子発現が制御される分子であるため、OSCCの5-FU耐性にはNF-kBの活性化も関与しているのではないかと考えた。そこで、SASとSAS/FR2、Ca9-22とCa9-22/FR2の全タンパクを抽出し、NF-kBシグナル関連分子の発現をウエスタンブロット法によって調べた。その結果、リン酸化p65、リン酸化IKK、IkBa、リン酸化AktなどNF-kB活性化の促進を支持する関連タンパクの発現変化がみられた。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的は、OSCCの薬剤耐性化機構をmiRNA発現異常探索によって解明し、OSCC患者でのmiRNA発現分析より新規の薬剤感受性診断法を開発するとともに、miRNAを分子標的とする革新的な癌治療法開発につなげることである。現在のところ、OSCCの5-FU耐性化機構に関与する可能性の高いmiRNAの選定がなされ、OSCC細胞株にそのmiRNA mimicを過剰発現させることで5-FUへの耐性上昇がみられることを確認しているため、おおむね順調に研究が進展していると考えられる。
miR-30aが制御する標的分子を明らかにする。その際、miR-30aの発現を変動させることにより、miR-30a標的分子の発現変化、5-FU耐性、およびアポトーシス回避能についての確認実験を行っていく。特に、miR-30aがNF-kBシグナルに及ぼす影響について確認実験を行っていく予定である。
miR-30aの発現を制御するためのRNAとその導入試薬、各種標的分子の発現変動を確認するための各種抗体、real-time PCR用の試薬、アポトーシス実験関連試薬とキットなどの費用として研究費を主に使用していく。また、5-FU耐性の確認実験に関しては、in vitroでの確認実験がうまくいき次第、in vivoでの実験費用としても研究費を使用する。以上の研究経過については、様々な国内学会および国際学会で発表予定であり、他施設の研究発表より有用な情報を得るため、学会参加費として研究費を使用予定である。さらに、研究が順調に進行すれば、論文作成費としても研究費を使用する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
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