研究課題/領域番号 |
23592975
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (50256989)
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研究分担者 |
岡部 貞夫 日本歯科大学, 生命歯学部, 客員教授 (70573731)
島津 徳人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10297947)
青葉 孝昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30028807)
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キーワード | 歯学 / 病理学 / 舌癌 / 浸潤 / 組織立体構築 / 病理診断 |
研究概要 |
近年、口腔粘膜表在性癌は増加傾向にあり、予後として多発・局所再発とともにリンパ節転移症例も含まれる。本研究では、舌表在性癌における局所再発・リンパ節転移の予後判定と予防につながる臨床病理診断基準の策定を目指して、外科切除症例における辺縁断端での異型上皮の表現型と深部断端での癌浸潤様式について免疫病理組織学的に検討する。初年度までに、術前に超音波検査およびヨード生体染色が施された舌癌の外科摘出・パラフィン包埋試料から最大組織割面領域に相当する薄切を作成し、サイトケラチン等の癌形質の免疫染色により症例別に異型上皮、上皮内癌、微小浸潤癌、浸潤進行癌の特徴となる細胞表現型について検討した。本年度では、異型上皮の評価としてサイトケラチンファミリー分子(例として、癌化した細胞ではCK17発現・CK13消失)、E-カドヘリン/βカテニンの免疫標識、また腫瘍間質マーカ(CD31、 CD34、 CD105、 D2-40、 S100A4、αSMA、 CD45、 CD68)を追加し、陽性シグナルを2次元画像上で統合・マッピングした。このマッピング情報に基づいて、3次元観察と形態計測の対象領域(切除辺縁のヨード不染域、上皮内癌と微小浸潤癌の移行部、浸潤癌の深達部など)を特定したうえで組織立体構築を行った。3次元構築像では、健常組織-病変境界部の水平方向(上皮層内でのCK13/CK17の発現転換など)と深部方向(上皮・間質の接合面の形状や上皮層への脈管間質の侵入など)における特徴によって症例を分別することができた。また、診断基準となりうる癌細胞浸潤の特徴についても、上皮内での異型細胞と増殖活性、微小浸潤にともなう孤在性癌細胞の出現頻度や癌母集団の境界面からの最近接距離などを細胞単位で計測し、25症例についての情報を蓄積することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、癌細胞表現型としてサイトケラチンファミリー分子(CK-4, -5, -7, -8, -13, -17, -18, -19)、Eカドヘリン、βカテニン、p120カテニンに加えて、腫瘍間質マーカとして、CD31、 CD34、 CD105、 D2-40、Lyve1、 S100A4、αSMA、 CD45、 CD68、CD163、CD206の多岐におよぶ特異抗体での多重免疫染色を実施した。本研究の到達目標として新たな臨床病理診断基準の策定を掲げているが、解析例を重ねるなかで、免疫標識シグナルを2次元画像上に統合・マッピングすることにより、診断につながる基礎情報として蓄積することができた。一部の症例では組織立体構築による解析も実現でき、周囲間質での血管・リンパ管密度、免疫系細胞との相互位置関係などの3次元構造特性を捉えることもできた。この3次元情報による病変区分には至っていないが、同じ症例においても癌実質・間質境界に沿って部位的に微小環境の多様性をともなうことが明らかとなった。解析に供した舌癌症例では、予後経過を含む臨床情報が揃っており、癌微小環境における実質・間質構造の特質(癌胞巣の連結性と増殖活性、intratumor領域とperitumor領域での脈管密度と空間分布、癌細胞と脈管壁との接触頻度と管腔内閉塞の発生頻度)と癌症例の予後情報(所属リンパ節への一次転移・後発転移、遠隔臓器への転移の有無)とを照合して口腔癌の予後判定基準を策定していくための準備を整えることができたと考えている。尚、これまでに自動薄切装置、自動免疫染色装置、バーチャルスライドの導入、画像解析システムの整備により、連続薄切標本の作製から立体画像表示に至る組織立体構築に要するプロセスを単純化・短縮してきたが、本年度では解析システムの更新に合わせて解析手順を見直し、大幅な作業時間の短縮も達成した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の計画として、2次元および3次元構造解析を遂行した全症例(2年半の実験期間内で30症例の解析完了を予定)の臨床画像情報・病理組織指標・予後経過を統合して、舌表在性癌の切除範囲の設定に有用な臨床・病理診断基準を確立する。本研究で解析してきた舌癌症例ではヨード生体染色と超音波画像診断を用いており、これらの臨床データと癌細胞(上皮細胞)マーカ(サイトケラチン/Ki67あるいはEカドヘリン/Ki67の二重標識)による組織立体構築の特徴を照合する。一部の症例では狭帯域フィルター内視鏡(NBI)による臨床診断情報が得られており、これらの症例については、CD31/D2-40(またはLyve1)免疫多重標識を加えて、上皮直下の血管・リンパ管網を再構築し、異型上皮から浸潤癌に至る脈管構造(形状と密度)をNBIで検出される脈管形状の特徴と対比する。組織立体構築の作業効率の向上で当初計画より多検体の解析が可能となったため、組織アレイ法での打ち抜き採取を応用して同じ症例における多部位での癌微小環境の立体構造解析を実施する。解析部位の検討に向けた準備として2次元マッピング情報は揃っている。また、外科切除後の臨床経過(局所再発と頸部転移の有無)と切除断端における病理診断パラメータとの多変量解析も視野において、異型上皮→上皮内癌→微小浸潤癌→浸潤癌の進展にともなう3次元組織形態パラメータの変化を明らかにする。特に、病変辺縁のヨード不染域では健常上皮-異型上皮および異型上皮-上皮内癌のフロント面、病変深達部では微小浸潤癌領域における癌実質・間質の境界を3次元表示し、辺縁方向(健常上皮層)と深部(間質)に向けた孤在性の異型細胞と癌細胞の出現頻度に注目する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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