侵害情報伝達に影響を与える局所因子を幼若ラットに付加し(刺激物質(CFA)投与もしくはC線維脱落を惹起するcapsaicin投与)、三叉神経領域の一時中継核である三叉神経脊髄路核における可塑的変化、特にミクログリアの動態を免疫組織化学的に明らかにすることが本研究の目的であった。前年度までにパラフィン切片を対象とした酵素抗体法による検討を試みたが、標本作成過程で多くの工程を経るため多大な時間を要すること、またパラフィン切片(厚さ数ミクロン)を用いた染色像から立体的な解析を行うには、多数の取り込み画像から重ね合わせ等の画像処理でさらに多くの時間を要すること、さらに全てのパラフィン切片において均一の条件での免疫染色像を得ることが困難であることから、本年度は染色法を蛍光抗体法に切り替え実験に取り組むこととした。 幼若ラット延髄標本の作成は、これまで同様パラフォルムアルデヒドによる心臓からの灌流固定ならびに延髄摘出後の同液浸漬により行った。蛍光抗体法に用いるスライス切片(厚さ数十ミクロン~数百ミクロン)は通常、凍結切片として作成されるが、今回は非凍結標本のままリニアスライサー(堂坂イーエム社貸出機)を用いて50~100ミクロンの延髄水平断連続切片とした。得られたスライス標本に対して浮遊切片として蛍光抗体法による染色を試みたところ、一次抗体として用いたIba1、GFAPに対するミクログリア、アストロサイトの突起を含めた良好な染色像が得られ、侵害情報伝達が修飾される条件下での有用性が示唆された。 今回確立した実験プロトコール(ラット延髄非凍結標本の水平断浮遊切片に対する蛍光抗体法染色)は、三叉神経脊髄路核(延髄後角)における侵害受容機構の可塑性解明に極めて有用であると考えられたため、今後ニューロン-グリア相互作用を対象として本プロトコールを用いた研究を展開する計画である。
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