歯の移植は、移植歯の歯周組織が良好に治癒し再生すれば、正常歯と同様の機能を果たすことが可能であるという点で人工材料による治療よりも優れており、また、埋伏智歯など機能していない歯を移植歯として用いるために、自分自身の組織や器官を有効活用できる という利点もある。歯の移植後の創傷治癒不良は移植歯の抜歯窩と受容部が連続する場合に多いことから、術前にそのような状態が予想される7例に対しPRPを応用したところ、全例で術後早期に歯肉の上皮化が観察され、創傷治癒不良に陥った症例はなかった。一方で、多血小板血漿(PRP)は血小板中に含まれる各種成長因子や血液凝固の際に形成されるフィブリン網の介在によって創傷治癒を促進すると考えられているが、どのような作用機序で組織再生に寄与しているか不明な点も多い。今回我々はラットの抜歯窩にPRPを応用し形態学的に観察した。ラットの上顎臼歯3本を抜歯し、直径1㎜のラウンドバーで抜歯窩が連続するように骨欠損部を作製した。ラットの心臓より採血し作製したPRPを骨欠損部に填塞する群(PRP群)と何も填塞しない群(コントロール群)を作製し、組織学的、免疫組織化学的検索を行った。 術後3日目のPRP群ではPRP下層に炎症性細胞の集塊とフィブリン網の形成、さらにその下方には多数の血管を含む肉芽組織が認められたのに対し、コントロール群では骨欠損底部に炎症性細胞とフィブリン網が観察されるのみであった。また術後5日目のPRP群では骨欠 損底部全体にわたり厚い肉芽組織の形成と周囲歯槽骨の吸収が認められたのに対し、コントロール群では骨欠損底部のところどころわずかに肉芽組織の形成と周囲歯槽骨の吸収を認めるのみであった。このことから、PRP群では豊富な新生血管を伴った肉芽組織の速や かな増生による治癒機転が働いていることが示唆された。
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