研究課題/領域番号 |
23592992
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
入舩 正浩 広島大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10176521)
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研究分担者 |
森田 克也 広島大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10116684)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 全身麻酔作用 / 麻酔要素 / 意識消失 / 不動化 / 筋弛緩 / GABA / グリシン / サブスタンスP |
研究概要 |
全身麻酔作用は,健忘,意識消失,鎮痛,筋弛緩,侵害刺激による体動の抑制(不動化)などの要素が複合した状態である.今年度は,静脈麻酔薬のペントバルビタールにより引き起こされた意識消失,不動化,筋弛緩に及ぼすGABA,グリシンおよび神経性ニコチン受容体リガンドの影響を検討した.実験動物としてddY系成熟雄性マウスを用い,薬物は全て全身投与した.麻酔作用は,意識消失の指標として正向反射の有無,不動化の指標として侵害刺激による体動の有無および筋弛緩の指標として握力試験を用いて検討した.Gabaculineは用量依存性に正向反射を消失させその50%有効量は100 mg/kgであったが,不動化は400 mg/kgの高用量でも生じなかった.高用量のグリシントランスポーター阻害薬sarcocine(10 mg/kg)およびニコチン受容体拮抗薬mecamylamine(5 mg/kg)は,それ自体ではいずれの麻酔要素も引き起こさなかった。低用量のgabaculine(50 mg/kg)は,単独ではいずれの麻酔要素も生じなかったが,ペントバルビタールにより生じるこれら麻酔要素の全てを有意に増強した.Sarcocine(10 mg/kg)は,ペントバルビタールによる不動化のみを増強した.一方,mecamylamine (5 mg/kg) は何も影響を及ぼさなかった.選択的なGABA神経刺激は意識消失をもたらすが,不動化は生じない.ところが,低用量のgabaculineはペントバルビタールにより引き起こされる意識消失,不動化,筋弛緩の麻酔要素全てを増強し,sarcocineは不動化のみを増強した.以上より,各麻酔要素はそれぞれ異なる神経系を介して生じているのかも知れないが,ペントバルビタールにより引き起こされる種々の麻酔要素に対しGABAやグリシン神経は重要な役割を果たしていると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全身麻酔薬が引き起こす鎮痛・筋弛緩・不動化などの麻酔要素には,脊髄の痛覚や運動ニューロンが重要な役割を果たしていると考えられるが,その作用機序については今のところよくわかっていない.本研究の目的は,これら麻酔要素の発現における脊髄の痛覚や運動と関連するニューロンの主要な神経伝達物質であるサブスタンスP,γ-アミノ酪酸(GABA)およびグリシンの機能的な役割を明らかにし,その機序を応用した新しい全身麻酔法を開発することにあった.現在までの研究で,静脈麻酔薬のペントバルビタールにより引き起こされた意識消失,不動化,筋弛緩に及ぼすGABA,グリシンおよび神経性ニコチン受容体リガンドの影響を検討し,ペントバルビタールにより引き起こされる種々の麻酔要素に対しGABAやグリシン神経は重要な役割を果たしていることは分かった.しかし,これらのことが脳レベルで起きているのか、脊髄レベルで起きているのか,あるいはサブスタンスPの関わりはどうなのか,などまだ検討すべき点が残っている.今年度は予備実験的な意味合いもあり薬物も全身投与されたが,今後は脳内投与や脊髄腔内投与,中枢神経内の特定タンパクのノックダウンなどを行って検討していく.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,鎮痛・筋弛緩・不動化の発現における脊髄サブスタンスP,GABA,グリシンの役割を解明するため,行動薬理学的・生化学的手法を用いて以下の諸点について検討する.1)カプサイシン投与によるサブスタンスP神経(C線維)の破壊,2)脊髄での内因性GABA濃度の上昇やGABA分解酵素のノックダウン,3)脊髄での内因性グリシン濃度の上昇やグリシントランスポーター(GLYT)のノックダウン. これらの処置が全身麻酔薬により引き起こされる鎮痛・筋弛緩・不動化作用に影響を与えるか,明確にしていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
行動薬理学実験を行うにあたり,実験用動物(マウス),試薬,ノックダウンマウス作製のためのsiRNAの購入が必要である.また,マイクロダイアリシス実験など生化学実験を行うにあたり,マイクロフラクションコレクタ用の冷却装置,キット類,ガラス器具などを購入する必要がある.
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