研究課題/領域番号 |
23592996
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
仲西 修 九州歯科大学, 歯学部, その他 (50137345)
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研究分担者 |
石川 敏三 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90034991)
椎葉 俊司 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (20285472)
吉田 充広 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (40364153)
原野 望 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (50423976)
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キーワード | 癌性疼痛 / 神経障害性疼痛 / NOS / propentofylline |
研究概要 |
難治性疼痛の 病態メカニズムの解明とそれに基づく治療法の確立を目的として、神経障害性疼痛および癌性疼痛の分子機構解明、つまり脊髄の神経―グリア相互作用の時系列的・局所的変化を解明し、神経栄養因子誘導による治療が予防的および慢性期に治療応用できるか否かの基礎的知見を得ることを目的としている。 神経障害性疼痛では坐骨神経のホルマリン皮下注の痛覚過敏モデルを用い、グルタメート活性や神経興奮により放出され、NO産生抑制や、神経保護作用を有するagmatineや L-NAME (NOS阻害薬)、AVS (OHラジカルスカベンジャー), MK801(NMDAレセプター阻害薬)をくも膜下腔内カテーテルより注入しその影響を検討した。その結果,痛覚過敏の抑制には、シナプス後細胞に存在するNMDA受容体の阻害、及びNO産生の阻害が有用であり、また脊髄グルタメート貯留を抑制するスカベンジャーが効果的であることが明らかとなった。 癌性疼痛では従来より我々が行っている癌細胞(Walker256B)の眼下頬部への皮下注モデルを用いた。顔面領域における自発痛は、グルーミング様時間の延長を使用した。グルーミング時間の延長は接種後4日目から10日目をピークとして観察された。疼痛発生の4日目からpropentofylline(アデノシンの再取り込み阻害薬)の投与により、鼻毛部での機械的接触刺激はごくわずかな抑制だが、鼻毛部でのこれら異常疼痛は、後期には次第に消失し、むしろ感覚鈍磨になる傾向が見られた。一方、4日目からまた、自発痛に関しても有意な抑制効果を示しました。さらに興味深いことに、このモデルは接種9日目以降より食欲減退が観察されるが、プロペントフィリン投与によって回復することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強い痛み刺激が加わると神経グリアの相互作用によって神経可塑性といわれる神経伝達効率が高まった状態に陥り、このことが痛覚過敏、難知性疼痛を引き起こす。末梢組織傷害による強い求心性入力が神経前細胞から入力され、グルタメートの放出がおき、NMDAレセプターとの結合によりMgイオンが解離し、細胞内Caイオンの増加が引き起こされる。その後カルモデュリンやPKCといったCa依存性活性酵素とともにフォスフォリパーゼA2の活性からアラキドン酸カスケード、COXの作用を経てプロスタグランジンE2やラジカルが産生される。またNOSの活性化により、NOが合成される。炎症性疼痛や、その後の神経可塑性の主たる関与として注目されているものは拡散性の強いプロスタグランジン,NOである。これらが近傍のグリアを刺激し、そこからの更なる神経興奮物質の放出を促し、ポジティブフィードバック機構を形成していると思われる。またOHラジカルはグリアによる細胞間隙のグルタメート再取り込みを抑制する。よって神経障害性疼痛の治療法としてはこれらの一連の流れを遮断する必要が有ると思われる。そのための治療法の一つとして我々は脳由来神経栄養因子の関与を考えている。 口腔顔面部癌性疼痛の研究では癌細胞(Walker256B)皮下注による顔面癌モデルにおける自発痛の発生は10日目をピークに見られるが、無刺激の状態であっても、神経興奮マーカーであるc-Fosの有意な発現増加が観察された。このことから、組織レベルでの自発痛の発症が考えられた。また、このモデルは接種9日目以降より食欲減退が観察されるが、プロペントフィリン投与によって回復することが明らかとなった
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今後の研究の推進方策 |
ラットの顎・顔面部レベルにおける癌性疼痛および神経因性疼痛の病態について分子機構解、つまり脊髄の神経―グリア相互作用の時系列的・局所的変化を解明し、神経栄養因子誘導による治療やグリア細胞の活性化の抑制が予防的および慢性期に治療応用できるか否か、基礎的知見を検討する。神経因性疼痛モデル(坐骨神経のCCI(絞扼性神経損傷:Bennett)および癌性疼痛モデル(癌細胞(Walker256B carcinocarcinoma;2x106を眼下頬部皮下注)を作成し、その組織切片でのc-fos遺伝子発現およびDNA断片化にたいするTUNEL染色とBDNFに対する免疫染色を検討する。また、グリア細胞が神経障害性疼痛や癌性疼痛の原因と考えられる神経可塑性にどのような相互関係を有するかも検討し、NO産生抑制, NOS阻害薬、OHラジカルスカベンジャー,などが神経障害性討痛に有用と考えられ、この機序として神経可塑性に関与する拡散性の強いPG,NOが近傍のグリアを刺激することで形成される。神経障害性疼痛の治療法としてこれらを遮断するための治療法として我々はBDNFの関与を考えている。 癌性疼痛の自発痛において、疼痛モデルの顔面部グルーミング時間の延長が癌細胞接種後10日目をピークに観察された。これに、癌性疼痛の既に発生した4日目からのプロペントフィリン(アデノシン再取り込み阻害剤)投与によって、鼻毛部での痛覚過敏には抑制効果を示した。また、通常では9日目以降に見られる食欲減退はプロペントフィリンの投与で回復したことから、顔面部疼痛と摂食と関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.治療法に関する検討 脳由来神経栄養因子(BDNF)による治療:(ラット、各試薬の購入) 様々な神経栄養因子(nerve growth factor: NGF, basic fibroblast growth factor: bFGF, brain derived neurotrophic factor:BDNF)投与あるいは、その誘導剤、4-methyl catechol(4-MC) が脊髄損傷部、顔面部癌性疼痛部および隣接部位のapoptosisを抑止できるか否か、グリア反応と隣接部位でのシナプス再構築、および運動・知覚機能の修復を合わせ検討する。 2.効果的な治療法の概念の確定とその確立に関する検討:(ラット、各試薬の購入) 前年度の基礎的実験結果をもとに、以下の治療法を検討する。末梢神経障害、顔面部癌性疼痛モデルにおける治療としてアストロサイトあるいはs100β蛋白の阻害薬,神経栄養因子(bFGF、BDNF)阻害薬、神経栄養因子誘導剤の投与を行い,apoptosis、シナプス再構築、神経機能障害の回復に与える影響を検討する
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