咀嚼は、食物を細分し唾液と混和することによって嚥下に適した性状に整え、また食物の表面積を増すことによって消化液との接触面積を増し消化を助ける働きがある。咀嚼による食物の細分が不十分であると、胃の機能的負担を増し消化吸収に影響を及ぼすと考えられている。健常成人を対象とし、咀嚼回数、口腔内環境などを変化させた場合の胃排出機能を調べた報告はされているが、咀嚼機能と胃排出速度の関連については未だ不明な点が多い。不正咬合者での咀嚼機能の低下はすでに明らかにされているが、胃腸機能については報告は少ない。不正咬合者において咀嚼機能低下が胃の機能的負担を増し胃排出速度の低下を招いている可能性が推測され、その関連性を明らかにすることは今後の課題であると考えられる。そこで、本研究では不正咬合による咀嚼機能の低下と胃腸機能の関連性を検討した。被験群として、東京医科歯科大学歯学部附属病院矯正歯科外来に初診来院した永久歯列を有する不正咬合患者、対照群として同歯学部に所属している学生及び同歯学部附属病院のスタッフより個性正常咬合を有する者を抽出した。胃排出速度の測定は13C 呼気試験法にて行い、呼気中13CO2存在率がピークになるまでの時間Tmax(実測値)を求めた。咀嚼機能は咀嚼力判定ガムを80回咀嚼させ、色彩色差計を用いてCIELAB表色系にて定量的に評価した。Tmaxならびに咀嚼能力について、2群間において有意差検定を行ったところ、不正咬合群ではTmaxが有意に遅延し、咀嚼能力は有意に低下していた。不正咬合に伴う咀嚼機能の低下は、胃腸機能を低下させている可能性が示唆された。
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