研究課題
2005 年に病原レンサ球菌で新しく発見された線毛 pili はレンサ球菌の病原因子に関する従来の常識を一変させた。本研究申請では、口腔レンサ球菌における pili の分布を調べると同時に口腔レンサ球菌の病原性に対する pili の関与を明らかにすることを目的とする。 平成23年度は、まず、口腔レンサ球菌 S. sanguinis の pili についてリコンビナント pili を作成し、それを免疫して抗体を調製した。これらの抗体を利用し、pili 欠損株とpili 発現親株の蛍光免疫染色および金コロイド免疫染色を行って pili の菌体表層の局在様式を観察した。pili は菌体表層でほぼ一様に分布しており、長さは 1-2 um 程度であった。染色像からは、3種類の pili サブユニットのうち PilA が pili のバックボーンを形成しており、おそらく PilC が pili 末端に存在していると考えられた。宿主細胞マトリックスタンパク質との結合を調べると、フィブロネクチンが PilC と強く反応することが分かった。さらに PilC と唾液タンパク質との反応を調べると、 これが複数の唾液タンパク質と結合することが見いだされ、そのひとつは唾液アミラーゼであった。口腔内への定着の際に S. sanguinis の pili と唾液タンパク質との相互作用が重要な役割を果たしていると考えられることから、唾液をコートした培養用プレート上で S. sanguinis のバイオフィルム形成能を測定した。その結果、 pili 欠損変異株ではバイオフィルム量が明らかに低下しており、 pili と唾液タンパク質との相互作用がバイオフィルム形成、ひいては菌の口腔内定着に関与していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、口腔レンサ球菌 S. sanguinis の pili に関して、その局在と機能を明らかにすることが出来た。特に、S. sanguinis の pili が唾液タンパク質と相互作用すること、それが本菌の口腔内への定着に関与していること、の2点は今回得られた重要な知見である。
S. sanguinis の pili が細胞外マトリックスタンパク質以外にも唾液タンパク質と相互作用するという知見は、本菌の口腔内定着機構を考える上で重要な知見である。予備実験の結果から、アミラーゼ以外にも pili と結合する唾液タンパク質の存在が複数示唆されており、この点はさらに調べる必要があると考えている。また、 S. sanguinis 以外の口腔レンサ球菌における pili の存在についても今後検討を加える予定である。
本年度は計画調書に記載した通り PCR 装置を購入したが、当初購入を予定していたメーカーの機種と同程度の性能の PCR 装置がキャンペーン中という理由もあって他メーカーからおよそ半額で購入することができた。このため、その分の研究費が次年度に持越しになっている。 次年度の研究費は、申請書に記載した通り、遺伝子工学試薬、細菌培養用試薬、ピペットなどの消耗品などの購入に使用する予定である。
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