研究課題/領域番号 |
23593032
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北原 亨 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (00274473)
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研究分担者 |
高橋 一郎 九州大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (70241643)
湯浅 賢治 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (40136510)
飯久保 正弘 東北大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (80302157)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 筋機能MRI / 咀嚼筋疲労 / T2値 / MRS |
研究概要 |
咀嚼筋にクレンチングなどの過剰な負荷を与えると筋組織に炎症性変化が起こるとされるが、その炎症の有無や程度の評価は、主に患者の訴える疲労感や疼痛の強さなどから判断され、客観的かつ定量的な評価法はなかった。筋肉は運動によってグリコーゲンやブドウ糖を使用する時に 同時に作られる乳酸によって筋肉は酸性化する。連続的な動作による筋のパフォーマンスの低下は筋疲労と呼ばれ、我々にとってきわめて身近な現象である。この研究の目的は、形態的な情報とT 2 値から得られる機能的な情報を、同時に複数の筋から取得可能となる筋機能MRIの手法と、エネルギーの消費および生成時に生じる無機リン(Pi)やプロトン (H+)などの代謝産物を対象とした、磁気共鳴分光法(MRS)による骨格筋エネルギー代謝の評価を行うことにより、咀嚼筋における、噛みしめによる解剖学的、生化学的な変化を明らかにすることである。本年度は、1.5TのMRI装置(Intera Achieva、フィリップス社製)TEを変化させることによるT2map作成後のT2値の算出法確立、および、同MRI装置により31P-MRSを行うための、最適シークエンスを求めることを行い、適切なスペクトロスコピーを得ることが可能となった。また、持続的かみしめ時を想定した実験的疲労負荷内容として、咀嚼筋筋電図測定(日本光電社製)および センサーシートによる咬合圧測定(ニッタ株式会社製)を事前に行い、最大噛み締め時の筋活動(MVC)の10%をクレンチングの基準とし、規格化することとした。持続的かみしめ後の、QOLを著しく低下させると考えられる咀嚼筋組織内の疲労物質の、簡便かつ非侵襲的な測定法の検証を行い、分子イメージングによる筋疲労の高精度な診断法を確立することは重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度には、実験プロトコール策定、および撮像機器の最適シークエンス設定に要した期間が大きく影響したと考える。T2map作成後のT2値の算出法、および、同MRI装置により31P-MRS最適シークエンス確立までの経緯を記載する。MRI、MRSとも検査プロトコールは共通で、安静5分間、10%MVCクレンチング5分間後、安静5分間4セットを実験的疲労負荷内容とし、各セット期間に8回の撮像およびデータ収集を行うこととした。T2シークエンスMRI撮像はQ-bodyコイルにより、左右同時取得が可能であったが、MRSシークエンスでは31P-MRS 専用の表面コイル(リンコイル)を使用するが、咀嚼筋左右側を同時取得できないため一定期間をあけて別々に取得することした。上記プロトコールにおける5分間隔セットに関しては、T2値の算出およびスペクトル信号量算出を考慮した結果の設定であり、持続的かみしめ時を想定した10%MVCもまた、5分間持続的に行える実験的疲労負荷であることを基準に設定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
健常なボランティアを対象とした形態・機能的検査、および筋機能MRIによる生化学的検査を実施する。筋機能MRIに関するトラブルシューティングであるが、持続かみしめ時の咀嚼筋疲労物質濃度は個人差ならびに、各個人における変動も大きいと予想される。対策として筋機能MRI採得は少なくとも2回以上実施し平均化することで評価しようと考えているが、予備試験の必要性も考慮しなければならない。下肢で示されている運動前後のT2値の変化であるが、咀嚼筋全般では未確認であり、咀嚼筋活動の指標となりうるかについては検討の余地がある。本研究では、持続かみしめ前後における咀嚼筋(咬筋・側頭筋部・内外側翼突筋)のT2位の変化を算出し、咀嚼筋活動の定量化に対する筋機能MRIの応用の可能性を検証する。データを収集し以下に記す作業仮説を検証する。持続的かみしめによる咀嚼筋疲労が、顎口腔系に及ぼす影響の解明への展開を想定している。作業仮説1-1:持続かみしめ前後の咀嚼筋の横緩和時間(T 2 値)のマッピングによる筋活動の機能評価(筋機能MRI)は咀嚼筋疲労の指標となりうる。 作業仮説1-2:磁気共鳴分光法(MRS)による生化学的情報 (PI, PCr, ATP) の評価は、咀嚼筋疲労の指標となりうる。 作業仮説1-3:咬合圧の大きさは、持続かみしめ時の横緩和時間(T 2 値)および生化学的情報 (PI, PCr, ATP)の変化量に影響を与えうる。
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次年度の研究費の使用計画 |
これらの作業仮説を検証すると同時に、咀嚼筋の疲労が顎口腔系に及ぼす影響の解明と、有効な顎口腔機能の改善方法を検討する。次年度以降の研究費の使用計画に関しては、得られた研究結果を可及的速やかに学会発表や論文はもとより、当講座ホームページや大学主催の市民公開講座の開催、また、日常臨床での患者への説明や、資料採得時の被験者への説明を通して発信し、有効活用する考えである。作業仮説の検証後、分子イメージングによるエネルギー代謝に関わるリン酸化合物の定量法による咀嚼筋疲労の高精度な診断法の確立と同様に、咀嚼筋の疲労が顎口腔系に及ぼす影響を明確にする。将来的には、筋機能MRIとMRSを用いた咀嚼筋の疲労の定量的測定法を、診断ならびに治療結果の評価に加え、さらには矯正歯科領域の不正咬合という病態の解明を、生化学的側面から展開したいと考えている。
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