研究課題/領域番号 |
23593032
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北原 亨 九州大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (00274473)
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研究分担者 |
高橋 一郎 九州大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (70241643)
湯浅 賢治 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (40136510)
飯久保 正弘 東北大学, 歯学研究科(研究院), 講師 (80302157)
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キーワード | 筋機能MRI / 咀嚼筋疲労 / MRS / T2値 |
研究概要 |
咀嚼筋にクレンチングなどの過剰な負荷を与えると筋組織に炎症性変化が起こるとされるが、その炎症の有無や程度の評価は、主に患者の訴える疲労感や疼痛の強さなどから判断され、客観的かつ定量的な評価法はなかった。これらの疼痛や疲労感は、咬合状態や顎態と関連し、患者の QOL を低下させるものと考えられる。 作業仮説1-1:磁気共鳴分光法(MRS)による生化学的情報 (PCr, PI, ATP) の評価は、咀嚼筋疲労の指標となりうる。作業仮説1-2:持続かみしめ前後の咀嚼筋の横緩和時間(T 2 値)のマッピングによる筋活動の機能評価(筋機能MRI)は咀嚼筋疲労の指標となりうる。作業仮説1-3:咬合圧の大きさは、持続かみしめ時の横緩和時間(T 2 値)および生化学的情報 (PCr, PI, ATP)の変化量に影響を与えうる。磁気共鳴分光法(MRS)による骨格筋エネルギー代謝の評価を行うことにより、咀嚼筋における、噛みしめによる解剖学的、生化学的な変化を明らかにするべく、平成24年度は、これらの仮説のうち仮説1-1を検証するべく作業を進めた。 本年度は、1.5TのMRI装置(Intera Achieva、フィリップス社製)により31P-MRSを行うための、最適シークエンスを求めることをまず行い、適切なスペクトロスコピーを得ることが可能となった。持続的かみしめ時を想定した実験的疲労負荷内容として、最大噛み締め時の筋活動(MVC)の20%をクレンチングの基準とし、規格化することとした。共分散行列を用いた80%検出力を設定したサンプルサイズを算出するため、健常ボランティア男性7名、女性9名の31P-MRSデータの取得を予備的に行った。 持続的クレンチング後の、咀嚼筋組織内の疲労物質の簡便かつ非侵襲的な測定法の検証を行い、分子イメージングによる筋疲労の高精度な診断法を確立することは重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
31P-MRS取得に関しては、前述したMR装置および直径8cmのサーフイスコイルを用いて、特定条件でパルスを加えFID信号を測定加算した。得られたFlD信号をフーリエ変換し、位相補正を加えることにより31Pスペクトルを得た。MRS検査プロトコールは、1)クレンチング前安静時に信号取得、2)クレンチング中に信号取得、3)クレンチング終了直後より4回信号取得(回復時1 ・回復時2・回復時3・回復時4 )。1回の撮像時間は4分47秒であった。安静時、クレンチング時、および各回復時の31P-MRSにおいてPCr(クレアチンリン酸)を計測した。これらの値よりPCrの回復率を求めた。PCrの回復率は以下のように定義した。PCr回復率(% ) =各時期のPCr/クレンチング前安静時のPCr。 MRSシークエンスでは31P-MRS 専用リンコイルを使用するが、咀嚼筋左右側を同時信号取得できないため、右側から左側という順番で40分のインターバルのはさみ、左右側別々に信号を採得した。16名の健常ボランティア(平均年齢31歳)を対象として31P-MRS信号取得を予備的に実施した。
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今後の研究の推進方策 |
31P-MRS信号取得は、共分散行列による80%検出力備えるサンプルサイズを算出の後、その数に達し次第終了とする。持続かみしめ時の咀嚼筋疲労物質量は個人差ならびに、各個人における変動も大きいと予想される。このばらつきに対する対策として、複数サンプルについて少なくとも2回以上の信号取得を実施し、信号取得対象個体の日格差を検定する目的で、2元配置分散分析により評価しようと考えている。また、撮影日による撮影機器の日格差を検定する目的で、2元配置分散分析による検証を行う予定である。 31P-MRSデータ採集完了後はMRIデータの順次収集を開始する。以下に記す作業仮説を検証する。作業仮説1-2:持続かみしめ前後の咀嚼筋の横緩和時間(T 2 値)のマッピングによる筋活動の機能評価(筋機能MRI)は咀嚼筋疲労の指標となりうる。検証方法として、T2値の計測は、先ずT1画像の咀嚼筋(咬筋)の最大スライス画像において、region of interest(R0I)を筋幅の中央部に可及的に大きく設定、その後にT2画像の同じ部位に置き換えてT 2 値を計測する。クレンチング前後におけるT2値の上昇率は以下の式により求める。上昇率( % ) = (クレンチング後のT 2 値-安静時のT2値)/安静時のT2値。MRのT2値は咀嚼筋の動員状態を示す指標となり得るか検証する。 下肢で既に報告されている運動前後のT2値変化ではあるが、咀嚼筋全般では未確認であり、咀嚼筋活動の指標となりうるかについては検討の余地がある。本研究では、持続かみしめ前後における咀嚼筋(咬筋)のT2値の変化を算出し、咀嚼筋活動の定量化に対する筋機能MRIの応用の可能性を検証する。持続的かみしめによる咀嚼筋疲労が、顎口腔系に及ぼす影響の解明への展開を想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
これらの作業仮説を検証すると同時に、咀嚼筋の疲労が顎口腔系に及ぼす影響の解明と、有効な顎口腔機能の改善方法を検討する。次年度の研究費の使用計画に関しては、得られた研究結果を可及的速やかに学会発表や論文はもとより、当講座ホームページや大学主催の市民公開講座の開催、また、日常臨床での患者への説明や、資料採得時の被験者への説明を通して発信し、有効活用する考えである。 将来的には、筋機能MRIとMRSを用いた咀嚼筋の疲労の定量的測定法を、診断ならびに治療結果の評価に加え、さらには矯正歯科領域の不正咬合という病態の解明を、生化学的側面から展開したいと考えている。
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