研究課題/領域番号 |
23593043
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
櫻井 敦朗 東京歯科大学, 歯学部, 助教 (90431759)
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研究分担者 |
新谷 誠康 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (90273698)
丸山 史人 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30423122)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 口腔内細菌叢 / 乳酸桿菌 / 哺乳齲蝕 / 齲蝕 |
研究概要 |
これまで齲蝕の原因菌は、歯面定着性、酸産生能の高さからミュータンスレンサ球菌が主力であると考えられてきた。しかし、哺乳齲蝕のような特徴的な齲蝕形態を考えると、すべてにミュータンスレンサ球菌を中心とした齲蝕形成メカニズムが当てはまるのかどうかは疑問である。また口腔の複雑な細菌叢を鑑みるに、齲蝕を中心とした口腔、あるいは全身疾患の発症機序を解析するためには単一の細菌種だけをターゲットとした研究手法だけでは不十分である。そこで本年度は申請者の所属する病院の小児歯科に来院した1ー9歳児の患児から歯面プラークを採取した。本研究で特に注目した乳酸桿菌属細菌については単離・同定し、さらに歯面プラークからの細菌由来ゲノムの抽出を行って、16S rDNAをターゲットにした次世代シーケンサーによる解析を試みた。シーケンスで得られたデータは現在解析中である。乳酸桿菌は歯面付着性が低いとされているが、本研究では歯面から得られた試料をまずショ糖含有培地で培養することで、採取時に歯面に付着しており、かつ耐酸性の高い乳酸桿菌の検出を試みた。各被験者に由来した乳酸桿菌属細菌と考えられる約300のコロニーについて、L.casei, L. salivarius, L. fermentumをはじめとし5種類の乳酸桿菌を同定した。乳酸桿菌の検出と齲蝕発生には相関関係が認められるほか、L. fermentumを保有していた被験者においては重症齲蝕が頻繁に認められ、一部試料で検討をはじめた遺伝子核型解析によれば同菌種であっても遺伝子構造にバリエーションを有する場合は齲蝕発生に影響を与えうることが示された。遺伝子構造にバリエーションを有するということは、口腔内への同一菌の定着が複数のソースから成立したことを示唆している。この結果は唾液等から乳酸桿菌の検出を試みたほかの報告とは大きく異なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に予定していた研究計画は、主に(1)被験者からの試料の採取,保存,細菌由来ゲノムDNAの抽出、(2)口腔内細菌叢に関するデータ取得の2点であった。このうち、被験者からの試料の採取については、被験者を齲蝕の有無によりa.哺乳齲蝕を認める(哺乳齲蝕群),b.乳臼歯部を中心とする一般的な齲蝕を認める(齲蝕群),c.齲蝕を認めない(対照群)の3群に分け,各群が12名程度となるようにすることを予定していたが、すでに予定を上回る62名から試料を回収し、順次プラーク全体からの細菌由来ゲノムの抽出および乳酸桿菌属細菌の単離培養をすすめている。この項目に関しては非常に順調と言える。一部については、平成24年度以降に予定していた単離された菌の菌種同定に基づいた乳酸桿菌属細菌の構成と口腔内診査・アンケートとの相関解析をはじめており、その結果得られたL. fermentumの高齲蝕誘発性なでについてすでに学会発表を行っている。次に口腔内細菌叢に関するデータの取得については、これまでに48名について、歯面プラークより監修した細菌由来ゲノムの回収を行い、16S rDNAをターゲットにしたPCRによる遺伝子増幅後、次世代シーケンサーを用いた解析に供した。得られたread数については十分量に満たない試料もあるため、今後遺伝子増幅やclean upの手法に多少の改良を加える必要があるが、今後詳細な解析が行えると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究予定は主に(1)ピックアップした菌種の菌数・菌株数と口腔内診査・アンケートとの相関解析、(2)ピックアップした菌種の齲蝕原性に関する解析および既知の齲蝕原性菌との相互作用に関する解析、であるが、(1)について一部はすでに検討を始めることができており、今年度も解析をすすめていく予定である。これまでの他グループによる研究で、同一試料より得られた一つの菌種であっても,すべてが同じ遺伝子プロファイルを持った単一の菌株に由来するとは限らず,複数の菌株を口腔内に有していると齲蝕が多くなるという報告がある。本研究においてはこの点においてより詳細な検討を加えるため、ゲノムDNAを抽出後各種制限酵素による処理を行い、パルスフィールドゲル電気泳動を行うことで,一つの試料中の同一菌種内に異なる遺伝子プロファイルを持つ菌株がいないかを検索する.得られた結果は,平成23年度で得られた結果と共に口腔内診査記録や生活習慣に関するアンケートと照合し,相関の有無を検討する.(2)については、極力口腔内の細菌の存在状況に近づけた解析を行うため、これまでの研究で行われた単一菌種を用いた解析手法でなく、本研究で単離した細菌種の各菌株を利用して複数菌種の存在下での解析を進めたいと考えている。菌種間の相互作用については既知の齲蝕原性菌とピックアップした菌,またはピックアップした菌種同士の複数の組み合わせによって解析し,培地中や唾液コートしたハイドロキシアパタイトなど存在下での菌増殖や歯面への付着能試験,バイオフィルム形成の評価,酸産生能試験を行う。それぞれの試験は単独の菌を供試した場合と比較する.菌株間で相互作用が認められる組み合わせについては共焦点レーザー顕微鏡によるバイオフィルムの観察や菌の構成の評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はパルスフィールドゲル電気泳動装置,リアルタイムPCR,顕微鏡観察の動作にかかる消耗品,細菌培養,プラスチック類の費用として計600千円、研究打ち合わせ費・国内学会参加費として100千円,論文投稿費用として200千円を計上している.また昨年度からの繰り越しが127,431円となっているが、これは平成23年度に16S rDNAをターゲットにした次世代シーケンサー解析を行ったが、得られたread数について十分量に満たない試料があったため、今後遺伝子増幅やclean upの手法に多少の改良を今年度に加えるためのものである。物品費についてはすべて消耗品として使用する予定で、設備備品の購入は予定していない。
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