研究概要 |
唾液は抗菌作用を示すヒスタチン,歯面ペリクルの形成やエナメル質の再石灰化作用を示すスタセリン,プロリンリッチタンパクなど様々な生理活性物質を含んでおり,口腔組織のみならず他の臓器,組織に影響を及ぼすことが徐々に明らかにされてきている.また活性酸素種が生活習慣病の主たる原因であることが解明されている一方で,唾液成分の活性酸素種を直接的に捉えて検討した報告は少なく,十分なエビデンスが得られていない.そこで今年度は当初の計画にあるヒト唾液成分の活性酸素種に対する抗酸化能を評価し,比較検討を行った. 研究協力者であるDr. Oppenheimより提供をうけた以下の試料を用いて研究は行われた.研究に同意が得られた健常ボランティアより耳下腺唾液を採取し,逆相HPLCにより唾液タンパク質成分であるヒスタチン1,3,5,スタセリン,PRP1, 2, 3, 4およびPRP1のN末端30残基(30r-PRP1)を抽出・精製した.これら唾液タンパク質の抗酸化能を,フリーラジカルを特異的に直接検出することが可能な唯一の方法である電子スピン共鳴(ESR)法によりDMPO(5, 5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide)をスピントラップ剤として用いて測定した.その結果,ヒスタチン1, 3, 5およびPRP 1,2, 3, 4は,活性酸素種であるスーパーオキシド(O2.-)産生系に影響を与えなかったが,ヒドロキシラジカル(HO.)産生系を濃度依存的に有意に抑制した.30r-PRP1およびスタセリンにおいてはO2.- 産生系およびHO. 産生系ともに,影響を与えないことが解明された.以上の結果から,30r-PRP-1およびスタセリンは抗酸化能を示さず,一方でヒスタチン1, 3, 5およびPRP1, 2, 3, 4はHO. に対して抗酸化能を有することが明らかにされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は今回,唾液タンパク質であるヒスタチン1, 3, 5およびPRP 1,2, 3, 4,PRP1のN末端の30残基,スタセリンの抗酸化能について資質評価をESR 法にて行い,エビデンスが確立された.現在、「抗酸化能」を持つことが明らかとなった唾液タンパク質であるヒスタチン1, 3, 5およびPRP 1,2, 3, 4,PRP1のN末端の30残基および既知の抗酸化成分であるカタラーゼ,SOD,GPX, ビタミンC,E,CoQ10をダウン症候群および健常者より採取した歯肉より分離した歯肉由来線維芽細胞に作用させたときの活性酸素・フリーラジカルの産生量の違いをESR 法により検討している。また歯肉採取時のBleeding On Probing、GI、ポケットの深さ等の臨床データも記録できている。臨床的アプリケーションと基礎的アプリケーションから,これら細胞に対する抗酸化物質の作用についても近いうちに結果をだせることから,歯周病における抗酸化物質の作用について報告できると考えている。以上のことから研究は順調に進展していると考えている。
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