研究課題/領域番号 |
23593049
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
小松 知子 神奈川歯科大学, 歯学部, 講師 (20234875)
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研究分担者 |
李 昌一 神奈川歯科大学, 歯学部, 教授 (60220795)
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キーワード | 歯周病 / 唾液タンパク質 / 活性酸素 / プロテオーム / Down症候群 |
研究概要 |
昨年度は,研究協力者であるOppenheim教授より提供をうけた唾液タンパク質の抗酸化能について,フリーラジカルを特異的に直接検出することが可能な唯一の方法である電子スピン共鳴(ESR)法により測定した.それにより,N末端30残基プロリンリッチプロテイン1(30r-PRP1)およびスタセリンは抗酸化能を示さず,一方でヒスタチン1, 3, 5およびPRP1, 2, 3, 4はヒドロキシラジカル(HO.)に対して抗酸化能を有することを明らかにした.そこで,当初の計画では予定されていないが,歯周病,口腔カンジダ症などの口腔疾患とヒト全唾液の活性酸素種に対する抗酸化能との関連性を評価することが重要と考え,今年度は,強力な抗菌作用を示し,今回抗酸化能を有することが初めて明らかとなったヒスタチン5に注目して研究を進展させた. その結果,健常児群に比較して,Down症候群(DS)患児群では唾液分泌量および唾液中のヒスタチン5の含有量が有意に減少し,一方でC. albicansの分離頻度は増加した.一方で,DS患者群においてヒスタチン5の含有量とC.albicans 菌数(CFU)は相関を示した(P<0.01).歯肉炎に関しては,歯肉炎指数(GI)を検査したところ,健常児群に比較してDS患児群で高値を示し,歯肉炎が進行していた.HO.に対する唾液中の抗酸化能においては,Fenton 反応系によるHO.消去活性健常児群,DS患児群ともにみられた.また健常児群と比較すると,DS患児群で消去能が有意に高いことが明らかとなった. これらの結果より,DS患児では,C. albicansの増殖に対する適応によりヒスタチン5が増加し,歯肉炎の進行に対しては,活性酸素産生を消去する抗酸化システムが強くなる適応反応がみられた可能性が考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,昨年度の研究から抗酸化能を有することが明らかとなった唾液タンパク質の1つであり,強力な抗真菌作用を示すヒスタチン5に注目して研究を進めてきた.これは当初の計画とずれを生じているが,歯周病,口腔カンジダ症などの口腔疾患とヒト全唾液の活性酸素種に対する抗酸化能との関連性を評価することは,本研究を確実に進展させ,目的を達成するための基礎データとして必要不可欠であると考えたからである. この結果が明らかとなり次第,本来の計画である既知の抗酸化成分であるカタラーゼ,SOD,GPX, ビタミンC,E,CoQ10や抗酸化能を有する唾液タンパク質をダウン症候群患者および健常者より採取した歯肉より分離した歯肉由来線維芽細胞に作用させたときの活性酸素・フリーラジカルの産生量の相違やプロテオーム解析によるタンパク発現の違いについて検討していく予定である.それにより,歯肉由来線維芽細胞に対する抗酸化物質の作用について近いうちに結果を見出せることから,歯周病や口腔カンジダ症における抗酸化物質の作用について報告できると考えている.最終的に,歯周病,口腔カンジダ症の臨床所見から得られたデータと基礎的アプリケーションから得られたデータを統合することにより,本研究の目的を達成できると考えている. 以上のことから研究は当初の計画よりやや遅れているが,目的に向けて成果はでていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から,歯周病、口腔カンジダ症の罹患状態と全唾液の抗酸化能との関連性およびヒスタチン5を中心とした各種唾液タンパク質の生理活性機能としての抗酸化能や抗菌作用との関連性が明らかにされてきた.この結果をもとに,今後は細胞レベルでの検討を行うことでさらに意義のある研究に進展すると考えられる. 現在,高齢者,若年者,早期老化を伴うダウン症候群,歯周病患者の歯肉線維芽細胞に抗酸化作用が明らかになった各種唾液タンパク質,既存の抗酸化物質の影響による活性酸素の産生量の違いについて検討を進めている.これらのデータをさらに裏付けるために,最終年度にはこれら細胞のタンパク質への影響をプロテオーム解析により検討する.その後プロテオミクスに基づくバイオインフォマティクによって,包括的に解析する予定である.これにより酸化ストレス分子種の細胞内でのタンパク質への影響が網羅的に解明され、歯周病,口腔カンジダ症の制御機構の解明につながる. さらに,宿主側のみでなく,歯周病原菌であるP. gingivalis および口腔カンジダ症の原因菌C. albicansに対しても抗酸化作用が明らかになった各種唾液タンパク質,既存の抗酸化物質の影響による活性酸素の産生量の違いとそれら細胞のタンパク質への影響を同時に検討することで酸化ストレス分子種の細胞内でのタンパク質への影響が網羅的に解明される. 以上のことから,本研究により唾液タンパク質の歯周病,口腔カンジダ症における多彩な作用の相互連関が明らかにされ,酸化ストレス機構を中心とした生体制御機構が解明されることで,予防医学の発展に寄与できると考え,さらに口腔の健康の基盤となる新しいコンセプトが築かれることが期待される.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品では,培養関連試薬,シャーレ等の培養関連品,ESR関連試薬の購入が必必要である.また,ESRの液体クロマトグラフィーによる自動測定への切り替えに伴い,関連器材,高感度セルの新規購入が必要となる.またプロテオーム解析に関してはフローボトムアップ方式の解析に必要であるcICATおよびiTRAQ試薬が主な支出となる. 昨年度,未購入であるESR analysis computer PCV-RZ75P Win RAD ESR analyzing systemを購入する予定である.ESRが本研究の方法論の主たるものであり,今回のプロジェクトで現在検討中である培養細胞における活性酸素とフリーラジカルの検出には,現存の ESR 装置でも最高感度が要求される.すでに我々が保有しているESR装置に,これらシステムを導入することにより,その水準をさらに高め正確な分析システムを構築するためである. また,これまでのデータを総括するにあたりOppenheim教授との研究打ち合わせや,国際学会での成果発表のための参加費および旅費,その後,論文にまとめるための印刷費等が必要となる.
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