研究課題
Reitan K.らの組織学的研究によれば、歯根セメント質表面にはヘルトウィッヒの上皮鞘(HERS)由来細胞や歯小嚢由来間葉系由来細胞からなる歯根吸収抵抗性の細胞層が存在する。本研究では歯根吸収抵抗性の細胞群の主体はHERS細胞であり、アメロジェニン変異体のオートクライン制御によりHERS細胞から上皮間葉転換により分化、移行したセメント芽細胞がその歯根吸収性の細胞層の主体であると仮定し、その分子機構、特に骨シアロ蛋白質(BSP)の転写制御にスポットを当てて解明しようとしている。以上の事からヘルトウィッヒの上皮鞘とセメント質の相互作用がどのようにして歯根吸収抵抗性という歯根セメント質の組織特異性を獲得するかを明らかにする事を目的とする。平成23年度の研究計画;方法の概要は、まず、不死化HERS細胞の培養系を確立し、その上皮間葉転換に及ぼす、精製したアメロジェニン変異体の影響をTGF-β1と比較する事である。生後2-3週のマウス大臼歯歯胚を外科的に摘出し、採取した歯牙、骨片を含む歯小嚢組織をコラゲナーゼとディスパーゼ混合溶液中で37℃、1時間消化する。得られた細胞集団をKeratinocyte用の無血清培地で37℃、5%CO2インキュベーター内で6-8週培養する。コンフルエントに達した細胞をマウスのHERS細胞群とした。一方、アメロジェニン変異体の精製には、すでに報告した昆虫由来細胞SF9を用いたバキュロウィルス蛋白質発現系における組み換え蛋白質の発現と精製法を用いた。まずは、シャトルベクターにアメロジェニンスプライシング変異体、M180とthe leucine rich amelogenin peptide(LRAP)の全長cDNAをクローニングした。
2: おおむね順調に進展している
マウスのHERS細胞は、生後2-3週のマウス大臼歯歯胚を外科的に摘出し、採取した歯牙、骨片を含む歯小嚢組織をコラゲナーゼとディスパーゼ混合溶液中で37℃、1時間消化した。さらに、得られた細胞集団をKeratinocyte用の無血清培地で37℃、5%CO2インキュベーター内で6-8週培養する事により単離を行った。初代培養細胞は量的に少ない事や継代により死滅する細胞が多いため、実験目的上、不死化は必須の条件である。通法に従いBmi-1 とhTERT遺伝子を初代HERS細胞にトランスフェクションし、G418とhygromysinB添加によってスクリーニングして得られた細胞集団を不死化 HERS細胞とする予定であるが、現在のところ成功していない。これまで間葉系由来のウシ歯小嚢細胞にて不死化は成功(Saito M. J Bone Miner Res 2005)しているが、マウス上皮系の細胞では他の条件、方法を検討する必要がある。アメロジェニン変異体の作製、精製については、翻訳後修飾を受けた遺伝子組み換え蛋白質を作製する目的で、昆虫由来細胞SF9を用いたバキュロウィルス蛋白質発現系(Horiguchi M. Bull Kanagawa Dent.2006)を用いることにしている。同様の方法を用いてシャトルベクターにアメロジェニンスプライシング変異体、M180とthe leucine rich amelogenin peptide(LRAP)の全長cDNAをクローニングする予定であった。現じ在、幼若マウス臼歯から得られたmRNA用いて、RT反応後cDNAライブラリーを作成し、既に報告されるPCRプライマーにてM180とLRAPのコード領域を持つDNA断片をクローニング中である。アメロジェニンスプライシング変異体には他にも7種あると報告されているため、その分別に時間がかかっている。
申請者ら(Paz J. Matrix Biol.2005)はマウスgenomic libraryからクローニングしたマウス骨シアロ蛋白質(BSP)のプロモーター転写開始点上流9.0kbを様々の長さの異なる断片をルシフェラーゼ発現ベクターにサブクローニングしている。培養した不死化HERS細胞にリポフェクトアミンを利用して上述の発現ベクターを遺伝子導入した後、平成23年度 研究計画(2)で作製したアメロジェニンスプライシング変異体、あるいはTGF-β1を添加し、その転写活性を検討する。また、申請者らは、Runx2の骨芽細胞特異的転写因子の結合領域を同定しつつあるが、それらの転写因子による骨シアロ蛋白質(BSP)遺伝子の転写制御が不死化HERS細胞、あるいは上皮間葉転換により分化したセメント芽細胞でも生じているかどうか、さらには作製したアメロジェニンスプライシング変異体を添加する事によりその転写調節に違いを生ずるかどうかを抗アセチル化ヒストン抗体、抗メチル化ヒストン抗体、抗Runx2抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(in vivo)にて検討する。申請者らはSCIDマウスを利用したin vitroセメント質形成モデルを報告している(Handa K. Bone 2002)。通法に従い不死化HERS細胞、上皮間葉転換により分化したセメント芽細胞と対照の不死化マウス歯小嚢細胞をSCIDマウスにアパタイトビーズと共に移植し、4週間後にHEと免疫染色や全RNAの抽出を行い、RT-PCRにてセメント質基質形成能を検討する。さらに、ホストマウスの破骨細胞の吸収活性を高めた後、同様に酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ染色や破骨細胞マーカーであるRANK、TRAF6、破骨細胞誘導因子のマーカーRANKLのRT-PCRにて破骨細胞誘導能を検討する。
平成23年度に未達成の目標と計画について研究を継続させるため、平成24年度に分子生物学的試薬、キットのを物品費として使用する事を予定している。平成24年度の研究計画1)については転写活性試験やクロマチン免疫沈降法に必要な分子生物学用の試薬、キットならびに抗体が必要となる。同2)についてはSCIDマウス購入費。免疫染色等の組織化学的実験用の試薬、キットが必要となる。さらにRT-PCR用の分子生物学用の試薬、キットが必要となる。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
The Journal of biological chemistry
巻: 286(4) ページ: 38602 38613
10,1074/jbc.M111.243451