これまでの研究成果から、EL/seaマウスの第三臼歯(M3)は5日齢から発育異常が認められ、その後10日齢で歯胚が消失することが知られ、その消失メカニズムには上皮側から間葉側へのシグナル伝達の異常が示唆されている。上皮と間葉の間に存在する基底膜分子としてインテグリンα3β1あるいはα6β1とラミニンα5が知られているが、とくに、上皮のインテグリンβ1とラミニンα5は、内エナメル上皮の極性化に重要であることが報告されている。 本研究においてラミニンα5の免疫染色結果では、EL/Kwマウスでは正常に発現するのに対して、EL/seaマウスの5日齢において、本来内エナメル上皮に発現が限局するはずのものが、歯胚全体に異常発現していた。さらに、7日齢および10日齢では、発現は消失していた。さらに、インテグリンβ1における免疫染色でも発現異常が見られた。そこで、EL/seaマウスにみられる歯種特異的な歯胚の消失がラミニンα5とインテグリンβ1の相互作用の異常によって、どのような影響を受けるのかを検討するため、EL/KwおよびEL/seaマウスのM1およびM2の臼歯を試料に、マイクロアレイ解析を実施した。その結果としてApoptosis pathway、Hedgehog pathwayの関与が示唆された。 以上の結果から、ELマウスにみられるM3の歯胚消失には、基底膜分子であるインテグリンβ1とラミニンα5が強く関与し、同時にアポトーシスシグナルに影響を与え、歯胚の発育に関与する遺伝子群の細胞活性を低下させている可能性が示唆された。
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