研究概要 |
歯肉増殖症の成因に関しては未だに不明な点が多い。しかし、カテプシン-L遺伝子欠損マウスでは、ヒト歯肉増殖症類似の歯肉組織の肥厚が惹起されることが確認されている(Nishimura F et al., Am J Pathol, 2002)。ゆえに、カテプシン-Lの機能低下が薬物性歯肉増殖症の成因に関与していると考えられる。そこで、本研究では多毛症を合併した先天性歯肉増殖症由来歯肉線維芽細胞におけるカテプシン-Lをはじめとするライソゾーム酵素系ならびにMMP, TIMPなどの細胞外基質分解に関わる酵素系、および基質合成系に異常がないかどうかを生化学的に解析するとともに、機能異常が見られればその異常の原因を分子レベルで明らかにすることを目的とした。平成23年度中においては、まず学内疫学研究倫理審査委員会への研究申請を行い、承認を得た。引き続き「多毛症を合併した先天性歯肉増殖症患者」から肥厚歯肉組織を採取後、器官培養を開始し、outgrowthした細胞を通常の方法に従って増殖させることが出来た。これにより現在「多毛症を合併した先天性歯肉増殖症における歯肉繊維芽細胞株」を樹立した。今後は、樹立した細胞株を用い細胞外基質の代謝に関わる酵素群の遺伝子発現、ならびにその酵素活性(特にライソゾーム活性)を評価する。調べた酵素群のうち遺伝子発現や活性に異常が認められた場合、以下の検討を行う。(1)発現異常が見られた場合はその遺伝子の調節領域の遺伝子配列を調査する。(2)活性に異常が認められた場合、ゲノム遺伝子に変異がないかどうか、変異型遺伝子導入細胞で酵素活性が低下するかどうかを確認する。最終的に本遺伝子を欠損、または過剰発現したマウスで確認が可能な場合、歯肉組織を詳細に観察するとともに、マウスhair follicle(毛胞)のターンオーバーを観察し、類似の病態が発現するか否かを検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進については、上記の様に計画している。従って、まずはライソゾーム酵素mRNAの発現状況ならびにその活性測定を行う。すなわちカテプシン-LのmRNA発現ならびにその活性を評価する。酵素活性の測定は蛍光プレートリーダーを用い、蛍光色素標識基質の遊離量で評価する。カテプシン-L以外のライソゾーム酵素活性もあわせ評価する。とりわけ、下記の酵素については特に重要と考え全種類調査する。(1):cathepsin-B, (2):cathepsin-H, (3):β-hexosaminidase, (4):β-Glucuronidase, (5):α-Mannosidase, (6):α-Fucosidase, (7):β-Galactosidase, (8):β-Glucosidase。以上の酵素および酵素活性測定用試薬等(OptiPlate, Z-Phe-Arg 7-amido-4-methylcoumarin hydrochloride, 7-Amino-4-methylcoumarin 等)に300,000円を見込んでいる。また、細胞培養用試薬(DMEM,Trypsin等)、培養用プラスチック(ディッシュ、プラスチックチューブ等)および分子生物学実験試薬(Tris, SDS, buffer, chloroacetic acid等) に各々200,000円(合計600,000円)を見込んでいる。さらに、研究成果発表のために国内旅費100,000円を見込んでいる。
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