研究概要 |
本研究の目的は,上皮成長因子レセプター (EGF-R) を介したシグナルによって産生されるケモカインが歯周病の免疫応答に及ぼす影響を明らかにし,さらにその応答性を人為的に調整する可能性を評価することである。はじめに,歯周病の病巣局所の主要構成細胞である歯肉線維芽細胞を用いて, EGFR発現量をウエスタンブロッティングにより評価した。EGFR高発現の細胞株として知られるヒト扁平上皮細胞由来A431細胞と比較して歯肉線維芽細胞は無刺激の培養系でEGFRを同程度発現していた。さらにEGF刺激によるEGFRのリン酸化を検出した。またこのリン酸化はその特異的阻害剤 AG1478 によって抑制された。そこで歯肉線維芽細胞における EGFR シグナルがケモカイン産生性に及ぼす影響を調べた。本年度は非免疫系細胞から産生され、体液性免疫応答に関わることが知られているサイトカインについてリアルタイムRT-PCR法を用いて定量解析した。その結果、歯肉線維芽細胞において A1478 で EGFR シグナルを阻害した場合,その濃度依存的に BAFF, APRIL, TSLP の発現が上昇することが明らかになった。このことから,歯肉線維芽細胞におけるEGFRシグナルは,体液性免疫応答に深く関わるこれらのサイトカインの発現を抑制し,歯周病における免疫応答に影響を及ぼしている可能性が示された。BAFF や APRIL は B細胞に対してその生存,分化,抗体産生に重要な役割を果たすTNFファミリーに属するサイトカインである。そこで歯肉線維芽細胞がB細胞に及ぼす影響を評価するために,in vitroで歯肉線維芽細胞とB細胞を共培養する実験系を確立した。今後この実験系を用いてEGFRを介したシグナルが関わる免疫応答の機構を明らかにしていく予定である。
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