研究概要 |
これまでに,歯肉線維芽細胞および歯肉上皮細胞においてEGFRのシグナルを抑制することによって複数のTh2応答にかかわるケモカインの発現が上昇する傾向があることを明らかにした。本年度は我々が見出したEGF-RシグナルをATP非競合的に阻害する短いペプチドを用いて特異的にEGFRシグナルを抑制した時のケモカイン産生性を評価した。歯肉線維芽細胞におけるペプチドのEGFRリン酸化抑制効果をウェスタンブロットで調べた結果,ペプチドはEGFRのリン酸化を抑制したが,その効果はATP競合阻害剤として知られるAG1478と比較して弱いことがわかった。ペプチドあるいはAG1478存在下でEGFRのシグナルを抑制した時の歯肉線維芽細胞のケモカイン産生性をタンパクアレーで網羅的に調べたところ,ペプチドの効果はほとんど検出できなかった。一方,AG1478存在下において,Th2ケモカインのうちEotaxin(CCL11), MDC(CCL17), Eotaxin-3(CCL26)の発現レベルは阻害剤なしと比較してそれぞれ9.3, 2.7, 2.4倍高かった。Th1ケモカインのCXCL9, CXCL10(IP-10), CXCL11の発現レベルにちがいはみられなかった。ケラチノサイトにおいてEGFRシグナルの抑制によって発現が増強することが報告されているケモカインであるCTACK(CCL27),MCP-1(CCL2)の発現はそれぞれ6.3, 3.3倍高かった。以上の結果より,ペプチドはEGFRシグナル抑制効果が弱いことからケモカイン産生性への影響を検出できなかった可能性があるので,ペプチド設計の改良の必要がある。歯肉線維芽細胞においてEGFRシグナルはTh2ケモカイン産生性に影響を及ぼし,歯周病の病巣局所における免疫応答に関与する可能性が示された。
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