我々は動脈硬化の新たなリスクファクター候補として、ミュータンスレンサ球菌に注目して研究を進めてきた。平成23および24年度の研究成果より、対象の非感染内皮細胞と比較して、Streptococcus mutans Xc が侵入したヒト動脈内皮細胞は、有意に多くの TLR2およびNOD2の発現がmRNAおよびタンパクともに増加することが明らかになった。今年度はTLR2およびNOD2 mRNA 発現抑制時のサイトカイン産生を調べることにより、これらのパターン認識受容体のヒト動脈内皮細胞におけるミュータンスレンサ球菌よるサイトカイン誘導能への関与を検討した。TLR2およびNOD2 mRNAの発現をRNA干渉で抑制後、Streptococcus mutans Xc と内皮細胞を24時間共培養した。抗生剤処理によって浮遊あるいは細胞表面に付着した菌を死滅させた後、菌が侵入したヒト動脈内皮細胞をさらに24時間培養して、内皮細胞におけるサイトカイン産生を同様に検索した。結果を非刺激内皮細胞(コントロール)あるいはTLR2およびNOD2 mRNAの発現抑制をしていない実験群と比較し、統計分析は一元配置分散分析の後、Dunnett検定を用いた(*P<0.05)。TLR2、NOD2 mRNAの発現を単独で、あるいは同時にRNA干渉で抑制すると、菌が侵入した内皮細胞におけるサイトカインの産生は有意に減少していた。ヒト動脈内皮細胞において“細胞質”に存在すると報告されているTLR2およびNOD2 mRNA発現を抑制するとサイトカインの産生が抑制されたことから、侵入したミュータンスレンサ球菌が、細胞質に存在するTLR2およびNOD2 に認識されて、内皮細胞におけるサイトカイン産生を誘導している可能性が示唆された。
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