研究課題/領域番号 |
23593097
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
相澤 文恵 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (80216754)
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キーワード | 介護者 / 要介護者 / QOL / 介護負担感 / 口腔ケア / 職務満足度 |
研究概要 |
本研究の目的は介護施設職員のQOL、介護職務満足度、介護負担感、セルフエスティーム(SE)等の実態を把握し、QOLの向上に寄与する要因を検討することである。 平成24年8月から11月、岩手県内の老人介護施設職員を対象として「介護施設職員の健康とQOLに関するアンケート」調査を実施した。予め岩手県内の全老人介護施設に対して調査への協力を依頼し、承諾が得られた施設に質問紙を送付した。介護施設職員のQOLはSF-8、口腔関連QOLはGOHAI、介護職務満足度は堀田の職務満足度尺度、介護負担感はMaslachとJacksonのバーンアウト尺度、SEはRosenbergのSE尺度、を用いてそれぞれ評価した。 岩手県内の189施設4,809名の職員から回答を得た。対象者の勤務場所で多かったのは、介護老人福祉施設:1,801名、介護老人保健施設:1,666名、グループホーム:861名であった。職種で多かったのは介護福祉士:2,174名、へルーパー:727名、看護師:389名、介護支援専門員:242名であった。 対象者の40.7%(1,954名)が現在治療中の病気を有し、最も多かったのは歯科疾患:695名、ついで腰痛:584名、肩こり:410名であった。介護施設職員のQOLを評価したところ、精神的サマリスコア、身体的サマリスコア、GOHAIスコアが国民基準値より有意に低かった。また、歯科の定期的受診者は精神的サマリスコア、GOHAIスコア、SEが非受診者より有意に高かった。さらに、介護負担感と職務満足度、QOL、SE等の関連を分析したところ、職務満足度が高い職員ほど介護負担感が低く、QOL、SEがともに高いことが示された。 本調査の結果、介護施設職員のQOLの実態が確認された。また、QOLとSE、介護負担感、職務満足度は連関し、口腔ケアの意欲がQOL向上の要因となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは要介護高齢者のQOLを維持・向上するためには、介護する側の人間のQOLを高める必要があると考え、「介護者が自らの口腔内に対する関心を持ち、ケアすることがSEを高め、それによってQOLが向上する」という仮説を設定し研究を開始した。 本年度は当初の計画どおり介護施設職員を対象として調査を実施した。調査内容は質問紙調査のみとした。口腔診査に関しては、申請者らが熟考した結果、QOLと口腔ケアへの意欲の関連性の検討に必要なのは、対象者の口腔内に対する主観的評価であると判断し、本年度調査では実施しないこととした。本調査ではあらかじめ岩手県内のすべての老人介護施設(390施設)に対して調査への協力を依頼し、その諾否と職員数を調査した。その結果、194施設から調査協力の承諾を得、実際には189施設から質問紙の返送があった。これらのデータはすべての種類の介護施設に勤務する職員を網羅しており、サンプリングは良好であったと考えられる。また、返送された質問紙数4,809は予想を上回った充分な数であり、仮説検証するに足るデータ数であると考えられる。調査結果の分析は当初の計画通りに実施し、口腔ケアの意欲がQOL向上の要因となる可能性が示された。 前年度調査についての研究成果は第71回日本公衆衛生学会総会において報告し、多くの研究者から高い評価を得た。本年度調査結果については第72回日本公衆衛生学会総会で報告する予定である。 以上の理由をもって申請者らは本年度の研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究実施計画は以下のとおりである。 1. 過年度の調査で得た家族介護者および介護施設職員の質問紙に記載された自由記載回答文章をテキストマイニングの手法を用いて解析する。また、調査地域の地域特性に関するデータを収集し、過年度において構築したデータベースに加える。これらのデータを用いて、家族介護者、介護施設職員のそれぞれにおいて、QOL向上のために必要な要因を抽出する。 2. 3年間の研究成果を国内学会、国際学会において発表する。 3. 研究成果報告書を調査協力施設および福祉行政機関に提供する。 本研究を実施することにより、現在の介護の問題点が抽出されることが期待される。また、家族介護者、介護施設職員のそれぞれにおいて、QOL向上のために必要な要因を総合的に把握し、口腔ケアに対する意識や実際の歯科保健行動によってQOLが向上する可能性を検討することができると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度調査によって得られたデータ数は4,809と予想を上回る数であり、自由記述回答の記載者も782名と多かったため、データ入力委託見積額が予算額以上となった。そこで、本年度予算内で課題研究を最大限に速やかに遂行するため、データ入力を2つの工程に分け、本年度は第1工程のデータ入力を委託した。次年度に第2工程を委託するため、本年度予算は使い切らずに次年度に繰り越して使用する。
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