研究課題/領域番号 |
23593098
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研究機関 | 奥羽大学 |
研究代表者 |
清浦 有祐 奥羽大学, 歯学部, 教授 (90194951)
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キーワード | 口腔カンジダ症 / Candida albicans / 誤嚥性肺炎 / 炎症性サイトカイン / 口腔ケア / 抗菌ペプチド |
研究概要 |
本研究は、高齢者の造血幹細胞移植に伴う免疫抑制薬の投与と微生物感染による口内炎と誤嚥性肺炎発症に対する科学的根拠に基づく予防法を確立するための前段階として、口腔カンジダ症のマウスを用いて、免疫抑制薬の投与が口腔粘膜にどのような傷害をもたらし、 Candida albicans の感染がいかに増悪していくのかを明らかにするのが目的である。昨年度はマウス口腔カンジダ症のin vivoの感染モデルを使用したが、in vivo の実験系のみでは詳細な解析が十分に行えない可能性がある。 今年度は、マウスの舌を用いた器官培養で口腔カンジダ症を再現することを試みた。すなわち、4週令のメスICRマウスから舌を採取し、1%ウシ血清含有RPMI1640培養液1mlをいれた24穴プレートのwell内部に置き、C. albicans OH-1株の菌液を加えて37℃条件下で培養した。その結果、1.2×100000個以上のC. albicansを加えた場合には、舌内で増殖すると共に舌表面に白苔が生じた。この器官培養システムは免疫抑制剤が口腔カンジダ症発現にどのように関わっているかの詳細なメカニズムの解析に有用と考えられる。 一方、マウスの免疫抑制状態における口腔カンジダ症発症のメカニズムを明らかにするための一助として、炎症性サイトカインに対する抗体を投与することを試みた。すなわち、炎症性サイトカインIL-6に対する抗体をマウスに投与してマウスへの影響を調べた。4週令のメスICRマウスを購入し、マウスIL-6に対する抗体を25μg、12.5μgをそれぞれ3匹ずつに投与したが、無処置の3匹と比較して何らの外見的変化を認めなかった。次回は、抗IL-6抗体25μgを投与した際にC. albicansの感染によって起こるin vivoにおけるマウス口腔カンジダ症がどのように修飾されるかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
器官培養システムでもマウスの口腔カンジダ症の発現を認めることができたので、免疫抑制剤の口腔カンジダ症発現への関与の詳細な解析を効率よくおこなえる。
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今後の研究の推進方策 |
Candida albicansの口腔内への感染に際して、宿主であるマウスは炎症性サイトカインを産生して感染防御を試みる。しかし、免疫抑制剤の投与によって免疫が抑制されている状態ではマウスは充分な防御システムが働かないために炎症性サイトカイン産生が抑制されることとなる。したがって、炎症性サイトカインに対する抗体を感染時に投与することで、免疫抑制状態におけるC. albicansの感染に対するin vivoの反応を解析することができる。ヒトの慢性関節リウマチの治療で抗IL-6抗体を投与することが行われているが、さまざまな有害事象も報告されている。そこで、炎症性サイトカインの1つであるinterleukin-6(IL-6)に対する抗体をマウスに投与してマウスへの影響を調べる。さらに、高齢者の唾液もしくは装着していた義歯表面から分離・保存したC. albicansによる口腔カンジダ症と誤嚥性肺炎の治療に用いる抗菌ペプチドの検討を口腔カンジダ症のマウスモデルを使用しておこなう。このマウスモデルで得られた結果に基づいた抗菌ペプチドの選択をすることで、抗真菌薬使用よりも安全で有効性の高い予防法および治療法の開発ができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 炎症性サイトカイン抑制による免疫抑制状態における口腔カンジダ症発症に関する実験:抗IL-6抗体25μgを週令のメスICRマウスに投与した際にC. albicansの感染によって起こるin vivoにおけるマウス口腔カンジダ症がどのように修飾されるかを検討する。 2. C. albicans 以外のCandida spp.による口腔カンジダ症の発生とそれに伴う誤嚥性肺炎の発症:口腔カンジダ症と誤嚥性肺炎の病態形成に及ぼす菌種による相違を検討する。すなわち、メス4週令のICRマウスにプレドニゾロンを1回 200 mg/kgで腹腔注射する。24時間後、C. glabrata, C. krusei, C. parapsilosis, C. tropicalis 菌液に浸した綿棒でマウスの口腔内を拭って口腔内に菌を定着させる。感染7日後まで経日的にマウスの頚椎を脱臼させてから、舌と肺を摘出する。①マウスの口腔内の観察:マウスの口腔内は経日的にデジタルカメラで記録して、免疫抑制薬の投与による上記Candida spp.の感染増悪の肉眼所見をとる。②舌の採取と炎症性サイトカインの測定:上記Candida spp.を口腔内に感染させた後は経日的に舌を採取して、生理食塩水中でほぐしたものをサンプルとして炎症性サイトカインの産生量をELISA法で測定する。 3. 口腔カンジダ症とそれに続く誤嚥性肺炎の予防および治療法の検討:抗菌ペプチドである LL-37、ヒスタチン、ディフェンシンなどをマウスの口腔内に塗布または静脈注射で投与、あるいは溶液を飲ませるなどして、C. albicans 菌数のリアルタイムPCRによる測定、組織観察、炎症性サイトカインの定量を行い、非投与群と比較する。すなわち、抗菌ペプチドを使用することで口腔カンジダ症および誤嚥性肺炎を軽減または予防できるのかを検討する。
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