研究課題/領域番号 |
23593115
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研究機関 | 九州保健福祉大学 |
研究代表者 |
原 修一 九州保健福祉大学, 保健科学部, 准教授 (40435194)
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研究分担者 |
三浦 宏子 国立保健医療科学院, その他部局等, その他 (10183625)
山崎 きよ子 九州保健福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (20331150)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 口腔機能向上 / 高齢者 / オーラルディアドコキネシス / 音響分析 / 摂食・嚥下機能 / 歯科 / ADL / QOL |
研究概要 |
本研究の目的は、地域在住の高齢者を対象に、発話、嚥下機能の向上を通じた統合的な口腔機能向上のための訓練プログラムを開発し、プログラムの効果を検討することである。今年度は、音響学的分析を含む発話や摂食・嚥下機能の評価・調査を行い、身体・日常生活機能、生活の質(QOL)との関係を検討した。対象者は、宮崎県北部地域在住の健常高齢者212名(平均年齢71.9歳:健常高齢者群)および、介護福祉施設に所属する高齢者85名(平均年齢82.3歳:虚弱高齢者群)。発声持続時間とオーラルディアドコキネシス(OD)の測定、摂食・嚥下機能評価、音声の音響分析を実施した。ADL20による主観的ADL評価、SF8 Health Survey(SF-8)とGeneral Oral Health Assessment(GOHAI)を用いた健康関連QOLおよび口腔関連QOLの評価を実施した。健常高齢者群のうち対象者の12.3%において、摂食・嚥下機能の評価項目のうち、3項目以上で基準値より低値を示した。摂食・嚥下機能が低下した者は、後期高齢者でSF-8の下位尺度、GOHAにおいて有意な低下を認めた。虚弱高齢者群では、ODの低下や声の震え等の神経性の発声障害を示唆する音声機能パラメータの悪化、摂食・嚥下機能の低下と、主観的ADLや健康関連QOL、口腔関連QOLの低下との有意な関連性を認めた。以上の結果は、口腔機能の低下は、ADLやQOL、精神的健康状態や社会活動性に影響を及ぼすことを示唆している。よって高齢者の口腔機能等諸機能の向上を図る方法として、高齢者が簡易にプログラムを実施でき、かつ相互交流を取り入れることを考慮する必要性が考えられた。本結果を基に、簡易にできる口腔機能向上プログラム「タンタン文字体操」を考案し、健康高齢者を対象に3か月間試験的に実施し、実施前後の効果の検討を質問紙を用いて行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画のうち、地域在住の高齢者を対象とした発話機能、摂食・嚥下機能の評価および分析を完了した。分析結果より、健常高齢者群においても約1割の者が摂食・嚥下機能のリスクを抱えていること、ODや音声、摂食・嚥下機能における高リスク者はADLやQOL低下を抱えていることが明らかになった。今後は既に評価を実施している、歯数や義歯の有無と適合度、咬合力とADLやQOLとの関連性を分析する。一方、口腔機能向上プログラムとして考案した「タンタン文字体操」は、上記調査にて低下を示したODの音節「ぱ」「た」「か」の構音運動や、摂食・嚥下機能に関連する要素を取り入れた。具体的には、口唇閉鎖と、口腔内で平仮名を書くという舌の運動により、口腔機能の改善を通じてADL・QOLの改善をはかるプログラムである。また本プログラムは、集団でも個人でも、約5分でできる簡易なものである。現在は在宅の健常高齢者20名に対し、本プログラムを3か月間試行し、実施前・後のQOLとプログラム実施中の口腔機能やADLの自覚的改善についての質問紙調査を実施・終了した。現在は、実施前・後のQOLの変化と自覚的口腔機能やADLの変化との関連性に関して分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1.発話機能、摂食・嚥下機能の縦断的評価を行う。平成23年度に実施した地域在住の健常高齢者212名のうち、協力が可能であった者を対象に、発語機能(発声持続時間とオーラルディアドコキネシス、音声の音響分析)、摂食・嚥下機能(水飲みテスト・反復唾液嚥下テスト・質問紙調査)、口腔内診査、ADL20による主観的ADL、SF8 Health Survey(SF-8)とGeneral Oral Health Assessment(GOHAI)を用いた身体健康関連および口腔関連QOLの再評価を実施する。23年度に測定済みの横断的データと、24年度の縦断的データを比較し、1年間の口腔機能の変化と、影響を受けたADL、QOL等の要因を検討する。対象者が在住する地域の市町村担当者との打合せを、既に開始している。2.口腔機能向上プログラムの試行的実施と修正を行う。地域高齢者を対象に、口腔機能向上プログラム「タンタン文字体操」を試行的に実施する。実施前・後に口唇圧、舌圧、摂食・嚥下機能等の口腔機能の評価、ADL、身体健康関連および口腔関連QOLの評価、およびプログラムに対する評価を行う。平成23年度の横断的評価と24年度の縦断的評価から得た知見も考慮し、プログラムの効果を評価し、プログラムを修正する。対象となる高齢者および施設との打ち合わせは、既に開始している。3.平成25年度は、口腔機能向上プログラムを本格的に実施する。協力市町村よりプログラムの実施群、非実施群を抽出する。実施群・非実施群の対象者に対し、訓練プログラムを実施前の口腔機能や、ADL・QOLに関する評価を実施する。実施群には、プログラムを毎日定期的に6ヶ月間実施する。プログラム終了直後に実施群・非実施群に対し、各機能の再評価・調査を実施し、実施群・非実施群のプログラム実施前後の口腔機能やADL、QOLの変化を総合的に比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費700千円1.物品費 300千円:1)雑記具:200千円として、音声録音用のPCMレコーダ、住民説明用のプロジェクタ等を購入する。2)消耗品:100千円として、パソコンソフト、データ保存用のメディア等を購入する。2.旅費 200千円:学会参加費(日本摂食・嚥下リハビリテーション学会、札幌市)として、100千円、対象地域(宮崎県北部市町村・宮城県仙台市)への打ち合わせ旅費として、100千円を計上する。3.人件費 170千円:データ入力研究補助者人件費として140千円、データ収集時の本学学生補助者の人件費として、30千円を計上する。4.その他費用 30千円:住民への口腔機能等実地調査結果郵送代として、30千円を計上する。
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