研究の趣旨に同意の得られた施設療養者21名を対象に、2度の手指表面の拭き取りを行った結果、2回目のデータ採取時に退所していた1名を除いた、延べ82手分のサンプルを採取した。全ての手指から細菌が検出され、1手当りの平均コロニー数は4.3×103 cfu/mlであり、また非拘縮手よりも拘縮手のコロニー数が有意に多く存在していた(p<0.001)。手指から最も多く検出されたものはStaphylococcus属で、全体の60.1%を占めていた。拘縮手および非拘縮手のStaphylococcus属の保有率は70.7%、78.0%、Staphylococcus属以外の菌属(以下、その他の菌属)の保有率は51.2%、53.2%であり、保有率に有意な差は認められなかった。しかし、同一対象の両手指から検出されたその他の菌属の細菌叢は異なる様子を示しており、拘縮の有無により細菌叢に違いがある可能性が考えられたが、今回の調査では拘縮の有無の影響かどうかについては明らかにならなかった。また、同一対象の同一手のデータ採取回別の細菌分布状況についても有意な差は認められなかったが、入所階毎に同一菌種が検出される傾向がみられたため、施設環境中に常在している細菌が一過性に付着したため検出された結果であると考えられた。さらに、各種菌株の消毒薬および薬剤感受性、患者の清潔ケアの内容およびADLの関係について検討した結果、エタノール、グルコン酸クロルヘキシジンを用いた試験では十分な消毒薬の効果が認められたが、薬剤感受性試験に関してはもばらつきがみられた。近年、病院感染予防という観点から医療従事者の手指衛生について多くの報告がなされてきているが、当事者となりうる高齢者の手指衛生の状態についての報告はほとんどなく、本研究はその実態を明らかにしていくための基礎的データの一つとして非常に意味のある研究であったと考えられる
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