研究課題/領域番号 |
23593127
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研究機関 | 浜松大学 |
研究代表者 |
木山 幹恵 浜松大学, 健康科学部, 准教授 (20345820)
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研究分担者 |
森下 直貴 浜松医科大学, 医学部, 教授 (70200409)
岡田 勇 創価大学, 経営学部, 准教授 (60323888)
田島 博之 秀明大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (40406715)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 看護倫理 / 徳 / 医師‐看護師関係 / 協働 / コミュニケーション |
研究概要 |
本研究の目的は、看護師が直面する倫理的問題の詳細を把握し、わが国の文化的特徴をふまえた看護師の倫理的立ち位置を提示することである。本年度は、アリストテレスやカントの倫理学的理論を丁寧に読み解き、倫理的重要概念について、看護実践の視点から整理した。また、国内外の文献レビューを行い、看護師が直面する倫理的問題の全体像を捉えた。その結果、倫理学的理論からは、看護倫理におけるキー概念である「徳」と「自律」について検討することができた。具体的には、アリストテレスは徳には知性的徳と倫理的徳の二種類あり、知性的徳は、学(エピステーメー)、智慧(ソフィア)、知慮(フロネーシス)といった「ものを考える力と心の働き」の能力であり、それは修練や習慣によって獲得できるとした。一方、倫理的徳は、勇気や忍耐、親愛を示すもので、人間の行動と情動に関わる魂の「状態」であり、生得的なものではないため、習慣を通して意識付けながら習得しなければならないとした。つまり、「善い行為」を繰り返し鍛錬することで倫理的徳が獲得され、その繰り返しから「善い人」になるというものであった。こうした視座から、看護師が倫理的場面を捉えるにはフロネーシスが不可欠であり、倫理的実践ができるためには習慣を通して「徳」を意識付けながら習得する教育が必要であることがわかった。国内外の文献レビューを通して、看護師が直面する倫理的問題場面は、概ね疼痛管理に関すること、薬剤による鎮静の是非に関わること、過剰もしくは不十分な検査・処置の指示について、不必要な死期の延長についてであった。そのすべての場面の背後には医師‐看護師間の役割遂行上の対立があると推察した。また、その対立には、看護師の「協働性」と「自己主張性」を中心とした、医師の看護師の役割に対する認識の低さや看護師の自律性の希薄さといった医療コミュニケーションの問題が潜んでいることが分った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の最終目的を達成するための基礎的部分を構築することができた。具体的には、本研究では平成25年度までに、わが国の文化に基づく看護実践の倫理として、医療における看護師の倫理的立ち位置を明示することを目指している。本年度研究実績として明示できた看護師の「徳」と「自律」の概念や、倫理的場面を捉えるために必要なフロネーシス、倫理的実践のための教育方法は、看護師の倫理的立ち位置の根幹となる部分であり、これまでの多くの研究では捉えられてこなかった部分であった。また、文献レビューを通して、医師‐看護師間の役割遂行上の対立の背景には、看護師の「協働性」と「自己主張性」を中心とした、医師の看護師の役割に対する認識の低さや看護師の自律性の希薄さといった医療コミュニケーションの問題が潜んでいることが明らかになった。このことは、看護師の倫理的立ち位置を検討する上で参考になるだけでなく、チーム医療における協働のあり方を人的側面から構築する必要性を指摘するものとなった。上述の理由により、本年度の研究は、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、本年度の研究結果をふまえ以下のことを推進する。 (1)医師-看護師間の協働的実践と役割認識の実態調査 (2)「最善の医療」の実現に影響をもたらす看護師の文化的側面の抽出(1)は医師と看護師を対象として、協働的実践の状況、行動特性、死生観等について実態調査を実施し、医師と看護師双方の協働上の問題点や課題を探る。(2)では、ジョージタウン大学の臨床生命倫理センターでの研修を通して、「わが国の文化的な側面」について検証し、倫理的実践における課題を探る。平成25年度は、(1)(2)の結果をふまえて、看護実践の倫理の質的な構造について哲学的に考察し、最善の医療を実現するための看護師の倫理的立ち位置を明示する。それぞれの結果は、発表や誌上で公表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の直接経費は約80万円(平成23年度繰越金30万1,316円と平成24年度配分額50万円の合計)である。今年度は全国調査および海外研修を実施するため、次のように研究費を使用する。【物品費】調査票作成費用および関連書籍の購入として15万円、【旅費】海外研修のための渡航費および滞在費、研究分担者との打ち合わせ旅費として50万円、【人件費】調査票の発送準備および海外研修における謝礼として10万、【その他】インターネット調査におけるシステム構築費用、調査票郵送費として25万円、合計100万円。本年度の研究費の使用予定が約20万円超過してしまった理由は、本年度実施する調査対象地域を当初の東海・関東圏から全国に広げたことにより、物品費および郵送費が予定額より上回ってしまったためである。不足分については、前倒し支払い請求書により申請し調整したいと考えている。尚、平成25年度の直接経費は前倒し支払い分を差し引いた約30万円となり、その使用計画として【物品費】10万円(関連書籍購入)、【旅費】20万円(研究打ち合わせおよび成果発表の旅費)と考えている。
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