研究課題/領域番号 |
23593129
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横内 光子 名古屋大学, 医学部, 准教授 (10326316)
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研究分担者 |
大野 ゆう子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60183026)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 外来化学療法 / シミュレーション / 医療システム / ベンチマーキング / Arena / 看護業務 / タイムスタディ |
研究概要 |
平成23年度は,外来化学療法部門のシステムモデルを構築することを目指した。複数施設での質問紙調査と聞き取り調査の内容を厳選することおよび予備的なモデル構築を目的として,まず1病院の外来化学療法部門における聞き取り調査データに基づき,TPM(Time Process Modeling)による診療業務フローを可視化した。これにより,システムモデルの主要業務要素が明確となった。さらに,患者に接する直接的なサービス提供以外の,記録や準備・片づけなど間接業務を別途モデルに組み込む必要性が明らかとなった。 聞き取り調査と詳細なタイムスタディデータに基づき,治療を受ける患者のがんのタイプによる点滴時間分布と治療割合,各主要業務要素に要する所要時間分布の各パラメータを算出した。例えば乳がんの患者では,1週間に治療を受ける人数の割合は36.4%と最も多く,点滴時間のパラメータは三角分布で最小値1分,平均値93分,最大値290分であり,比較的短時間で点滴を受ける。一方腎臓がんの患者の治療割合は1.4%と少なく,点滴時間は三角分布で最少182分,平均187分,最大191分と比較的治療時間のばらつきが少ない。同様に主要業務所要時間分布のパラメータを導出し,間接業務については,所要時間分布と各時間帯別発生頻度のパラメータを導出した。 これらの業務フローと各パラメータを用いて,システムシミュレーションソフトウェアArena Vr13.0により,システムモデルを構築した。さらに,構築したモデルを用いて,予備的なシミュレーション実験を実施した。複数条件での各100回のシミュレーション実験により,10床のこのシステムでは,看護師数3名以下ではベッド稼働率が低下すること,より多くのスタッフを配置しても,25~30名以上の患者の治療はベッド稼働率が限界に達することを客観的指標で示せることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の目標であったシステムモデルの構築ついては,1施設のデータではあるが詳細な聞き取り調査とタイムスタディデータに基づく基本モデル構築を完了し,ほぼ達成できたと考える。さらに,ベンチマーキングを行うための,予備的実験とその結果分析から,シミュレーション実験の方法や指標の解析方法を検討することができた。H23年度中に多施設での診療プロセスやスタッフ配置,診療状況などの調査を実施する予定であったが,モデル化とシミュレーション実験方法の検討を先に行うことで,調査に必要となる項目を明確化し,より効率的かつ効果的な調査につながると考え,こちらを優先して実施した。そのため,複数施設での多様な診療システムの調査については,H23年度の研究を通じて得られた多施設調査で必要となる詳細な項目を組み入れて,H24年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度は,昨年度に作成したシステムモデルでの実験条件を設定するため,複数施設の外来化学療法部門のフタッフ配置や設備,治療患者数と治療患者タイプなど要素パターンの抽出と診療プロセスパターンを抽出することを目的とする。方法として,全国の公的病院から無作為に400施設を抽出し,前年度明確にした調査項目から構成された質問紙を用い,郵送質問紙調査を実施する予定である。さらに,上記質問紙調査の際に協力の承諾が得られた施設において,診療プロセスや間接的な業務の内容と頻度など詳細な聞き取り調査を実施する。 これらの調査結果を分析し,前年度作成した基本モデルを修正した典型的システムモデルを複数作成する。さらに調査結果から得られた要素パターンや診療プロセスパターンに基づき,システムシミュレーションソフトウェアArenaを用いたシミュレーション実験により,ベンチマーキングを行う予定である。分析結果を掲載するインターネットウェッブサイトを作成し,公表する予定である。また,H24年度より,経営情報学の専門家を研究者分担者として加え,より精度が高く,実用的なベンチマーキングを目指す。 H23年度の研究成果は,国際的なシミュレーション学会(Winter Simulation Conference 2012)他複数の関連学会での発表を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
シミュレーション実験のためのハイスペックコンピュータの購入,および調査費用・調査旅費,ならびにH23年度研究成果を国内外の学会で公表するための費用として使用する予定である。
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