研究課題/領域番号 |
23593155
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研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
菊地 悦子 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 講師 (90307653)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 看護管理 / 高齢者長期ケア施設 / 日常倫理 / 倫理的意思決定 |
研究概要 |
介護老人保健施設の日常倫理に関する研究結果から(22年度末)、日常倫理を組織に確立していくための看護管理実践は、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設において共通している部分が多いということが推測できた。そこで、23年度は、看護管理者が日常倫理に基づく日常生活援助を確立するために行ってきた看護管理実践を可視化するために介護保険適用の上記3施設において国内で一定の成果を出している看護管理者、合計10人にインタビューを実施し、それらのデータから看護管理実践を抽出した。 結果、看護管理者は、スタッフを採用するところからかかわり、日々のケア内容が倫理的なケアを提供するという組織の理念にそったものであるか、自ら入所者の生活援助に関わり、また、入所前の生活歴を収集することで、入所者の尊厳に関する考察を行い、ケアスタッフに倫理的ケア、非倫理的ケアに関して考えること、振り返りを促すことで、スタッフ個々の倫理的感受性を高め、組織の中でそれらが共有されるような仕組みをつくっていた。 さらに、介護老人保健施設1箇所、特別養護老人ホーム1箇所で研究者が介護職に同行し、どのような職場環境でどのような知識、技術を使い、相互関係のなかで、どのような日常倫理に基づいた、または非倫理的な日常ケアが出現しているかを明らかにするために参与観察を行った。介護職は、利用者の笑顔や自分たちのケアの結果による利用者の変化に対し、やりがいを感じており、そのような利用者の反応に意義を持てるように介護職のリーダーは、メンバーに関わっていた。 看護管理者は、提供するケア内容が変化するまでに年単位の取り組みで成果をあげており、これらの看護管理実践をモデル化することは、組織の日常ケア提供に倫理的問題を感じている看護管理者に示唆を与え、組織に適用することでケアの質向上につながることが期待できると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
22年度末にまとめた介護老人保健施設の看護職・介護職がケアの決定方法に困った体験と日常倫理に関する研究結果と文献検討から、倫理的意思決定を支援する看護管理者の管理実践は他の高齢者長期ケア施設でも共通ではないかという推測ができた。そのため、23年度の計画では、介護老人保健施設の看護管理者が日常ケア実践における倫理的な問題にどのように介入しているのか、看護管理実践の可視化であったが、研究対象者に特別養護老人ホーム、介護療養型医療施設の看護管理者を加え、より多くの看護管理実践の可視化を試みた。 また、看護管理者の語りの収集からの看護管理実践とケアスタッフの日常倫理に基づいた生活援助との関係の妥当性を強化するため、介護老人保健施設と特別養護老人ホーム各1箇所で研究者が介護職に同行し、一緒に利用者の援助を行う参与観察によりデータ収集を行った。 23年度末現在、看護管理者の語りを逐語録にしたデータの分析と参与観察のデータの分析を進行している段階である。計画では、インタビューデータの分析から看護管理者の介入方法を検討するまでを23年度内に行うことにしていたが、計画を修正し、看護管理者の対象を増やしたこと、実際の日常生活援助場面の参与観察を加えたことでデータのボリュームを増やしたために、十分なデータ分析は至っていないが、それらは必要な修正であり、研究としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
22年・23年度の研究成果から、看護管理者が倫理的意思決定を支援することで期待できるアウトカムは、日常倫理に基づくケアが介護施設に確立することとして研究を進める。さらに、介護老人保健施設から適用範囲を拡大し、介護保険対応3施設を高齢者長期ケア施設として看護管理実践の研究を進めていく。また、拡大範囲を拡大したので、介護保険3施設の群間の差に注意しながら分析を行う。 23年度に収集した高齢者長期ケア施設で日常倫理に基づくケアを確立する看護管理実践に関する語りのデータから、24年度は高齢者長期ケア施設に日常倫理に基づくケアを確立する看護管理実践モデルを作成する。この段階で、学会で公表を行う。 次にモデルの組織への適応の可能性を検討するために、作成した看護管理実践モデルを国内の高齢者長期ケア施設で看護管理を実践している人をメンバーとして、フォーカスグループインタビューを行い、モデルの妥当性、実際に施設の看護管理に使用できるか、また、実際の看護管理者の行動としてどのようなことがあるか、できるだけ多くの意見を収集する。それらの結果で、看護管理実践モデルを評価し必要な修正を行う。この段階で2度目の学会発表を行う。 さらに、国内の広域の看護管理者がモデルに関して、合意できるかを検討する。方法としては、作成したモデルを国内の異なる地域の看護管理者をメンバーとした、郵送によるデルファイ法を行い、合意形成をする。また、自由意見を収集し、それらを合わせてモデルの修正を行い、一定の合意が得られるまでラウンドを行う。研究過程と結果を報告書にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
収集したデータを分析するためのコンピュータと関連機器。フォーカスグループインタビューに関わる費用として交通費、IC録音機器、テープ起こし費用。デルファイ法を用いた妥当性の検討のための3ラウンドを見込んだ郵送通信費、国内の有識者からの助言を受けるための交通費、謝金等。モデルで用いる概念を分析するための文献等。研究結果を発表するための学会参加に関わる費用。
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