本研究課題では,介護老人保健施設に入所している認知症のある高齢者を対象として,心拍変動の周波数解析結果から睡眠の質を評価する方法について検討してきた。 期間前半では,健康成人のデータを基に作成した評価方法を用いて高齢者の睡眠を評価することが可能かどうかについて検討した。その結果,日中の活動量の少ない高齢者でも心拍データで生体リズムのメリハリを評価可能なこと,睡眠中の心拍数が50bpm前半にまで低下することの多い対象では評価ができないこと,健康者に比べて評価が困難なケースが多いこと,評価方法に改善の余地があることが明らかとなった。 期間後半では,高齢者の睡眠及び生体リズムの改善に効果があるとされている介入を実施し,介入前後で比較した。介入としては高照度光療法と日中のアクティビティを増加の両方の実施を試みたが,専用器具を用いた高照度光療法は眩しすぎるという理由により高齢者からの受け入れが良くなかったことから,午後に60~90分間程度の時間を折り紙,塗り絵,談話などで過ごす日を週に4回程度設けるという介入を2週間行った。心拍変動データから得た睡眠の質の評価結果との比較には,腕時計型活動量計とシート型睡眠評価機器から得られた結果を用いた。その結果,心拍変動データからは介入前よりも夜間の副交感神経系活動の亢進が認められ睡眠の質が改善されている可能性を示唆する結果が得られたが,比較に用いた2種類の機器による評価結果とは必ずしも一致しない傾向にあった。今回の被験者の多くがADLが前回の被験者よりも低く通常は食事時間以外はベッド上で過ごしていたことから,活動量のみで睡眠を評価する方法の限界とも相まって評価が難しいところである。
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