研究課題
本研究は,看護技術の熟達化に至るまでの過程に着目し,その過程で起こる身体的動作の向上と,随伴して起こる思考と感情の変化を科学的な視点から検証し,その影響度を検討することにある.看護技術の「適応的熟達」(実践を通して構成された概念的枠組によって,問題状況の変化に柔軟に対応し適切なスキルの実行を導くことができること)段階に至る過程で起こる思考の変化を科学的視点から検証するために,光イメージング脳機能測定装置(Spectratech OEG-16)を使用した.基礎看護学実習を終えた大学2年生11名を対象に5分間の休憩をはさみ,3セット(1セット5回)の血圧測定を行ってもらった.3セットの脳血流量を比較した結果,ch8ではオキシヘモグロビンが1セット目(0.257026±0.58498mMol.mm:mean±SD)と比較して,2セット目(0.232977±0.533439 mMol.mm:mean±SD),3セット目(0.114882±0.427269 mMol.mm:mean±SD)と有意に減少していることが分かった.また,ch9では1セット目(0.456152±0.67653 mMol.mm:mean±SD)と比較して2セット目(0.30116±0.430239 mMol.mm:mean±SD)は有意に減少し,3セット目(0.528325±0.63785 mMol.mm:mean±SD)は有意に増加していることが分かった.血圧測定にかかった時間を比較すると1セット目は140±33sec(mean±SD),2セット目は129±30sec(mean±SD),3セット目は125±28sec(mean±SD)と有意に短くなっていた.このことより回数を重ねて自動化が起こった結果,前頭葉のヘモグロビン濃度長に変化が生じている可能性が考えられた.1セット目と比較してオキシヘモグロビンが有意に減少している部位と,増加している部位もあることがら,自動化が起こってもヘモグロビン濃度長変化は部位により異なることが確認された.今後は今回得られたデータをより詳細に分析し,看護技術の熟達化に伴うヘモグロビン濃度長の部位別の変化をさらに検証していく必要がある.