本研究の目的は、温罨法が入眠にもたらす効果を実験的に調べることである。2013年度には、20代の健康な成人(男女)12名を対象として、ホットアイマスク適用の有無による入眠の違いを調べた。前年度までの実験と同様に、各対象者は普段通りの時刻に就床し、入床時に10分ほどアイマスクを装着した。睡眠中には自律神経活性を評価するために、連続的に心拍を測定した。また、ふとんの下に体動センサーを設置し、体動から入眠までの時間、および睡眠得点を評価した。起床時にはOSA睡眠調査票を用いて、その日の睡眠に関する実感も調べた。当該年度は、目もとの温罨法について、被験者数を増やすことが一つの目的になっていたので、前年度に実施した頸部の温罨法については除外し、初年度に検討した3条件による反応の違いに注目した。各対象者に設定した実験条件は、入眠前にアイマスクを装着する「アイマスク条件」、蒸気温熱シートを装着する「ホットアイマスク条件」、および何も装着しない「対照条件」である。これら3条件の実験をそれぞれ日を変えて実施した。 対象者数を増やしても、入眠時に心拍数が減少することと、心拍変動から見積もられる交感神経活性が低下することが確認された。ホットアイマスク条件では、対照実験に比べると、その割合が大きくなることも、より明確に示されたといえる。体動センサーによる評価では、熟睡度に条件による差はみられなかったが、入眠までの時間については、ホットアイマスク条件が最短であった。睡眠調査票によって算出された得点も「入眠と睡眠維持」「夢み」の因子についてはホットアイマスク条件が最も高く、寝る前に目もとを暖めることが、その後の睡眠の状態に影響することが示唆された。
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