研究課題/領域番号 |
23593199
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
梶谷 佳子 京都橘大学, 看護学部, 准教授 (40224406)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 新人看護師 |
研究概要 |
新人看護師は学生時代とは異なる環境で臨床実践能力の向上を図ることが必須である(厚生労働省,2003).病院就職者の新人看護師の離職率は平成18年度で9.2%であり(日本看護協会,2009),その原因の一番目は基礎教育終了時の能力と臨床で求められる能力とのギャップである.ベナーは「新人看護師は状況を把握することがほとんどできない.~しかも教わった規則を思い出すことに集中しなければならない」と述べており,新人看護師が成長していくためには学習上の支援が必要であるといえる.そこで,本研究では,正統的周辺参加論により新人看護師の看護実践のための学習プロセスの実態を明らかにすることを目的とする.今年度は,予定では新人看護師を対象とする調査予定であったが,その前段階の初学者である学生の実態を把握することを優先に考えた.これは,学びの共同体がどのように形成されているかを理解することによって,その後の新人看護師を対象とした調査を円滑にするためである.一方で,インフォーマルな新人看護師の集団にインタビューし,現状の把握に努めた. 学生の調査では,学びの共同体に影響を及ぼす要因として,学内演習に関わった教員はもちろんのこと,自然派生的に生まれたインフォーマルな学びの共同体が特徴的であった.また学生の学習支援者としては,模擬患者としてのかかわりを持った地域住民,さらには家庭で患者役割を果たした家族であった.新人看護師を対象としたインフォーマルなインタビューでは,ローテーションを採用している病院で研修を受けている新人看護師は,様々な診療科を経験し,自分の適性を模索していた.患者の状況が緊迫する病棟で勤務する新人看護師や勤務時間が終わっても仕事が残っていて,終業できない看護師はストレスの高い状況にあった.プリセプターとの関係は比較的良好で,肯定的な関係を築くことができていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学生を対象とする調査では,実践看護学実習IIにおける学生の血圧測定技術の獲得体験の実態を明らかにした.研究対象者は看護学部2回生98名.データ収集時期は2011年3月.無記名自記式質問紙調査を実施.本学研究倫理委員会にて審査を受けた.結果として,8日間の実習後での自己評価は有意に上昇していた.その理由として,回数をこなした,緊張が解けた,患者の腕の特徴が分かったなどの理由が多かった.学生が最も困難と感じている手技は減圧で,次いでコミュニケーションを図りながら行うことであった.自由記述から,患者の血圧変動が著しかったことが原因と考えられた。95%の学生の自己評価が上昇したにも関わらず、大変困難な理由として,TVの音で聴診しずらかった,上腕動脈の位置がやや内側で脈の緊張が弱く困難だったなどの自由記載があった.考察として,臨床という患者の身の周りの環境調整や,自然な流れのコミュニケーションを図ることは初期の学生には困難であることが分かった.また個々の患者の身体状況あるいは病態などもその手技の困難感に影響を与えていた.このことから,臨床という緊張が高まる環境における技術修得には、単に機械的な技術修得に陥らず,学生の精神面の配慮をも含んだ実習指導が必要であることが示唆された. 新人看護師と対象とする調査では新人看護師の学習経験の実態をグループインタビューにて明らかにした結果,プリセプターが日々の学習支援者であり,自主的に学ぶ姿勢を追求していた.日々学習することを課せられており,周囲の支援を得ながらでないと成長をすることの困難性が窺えた.初心者看護師達の学びを支える「社会化エージェント」としての,周囲の人々の支援の重要性が示唆された.今年度は調査フィールドの調整が困難であったため,実際の参加観察には至らなかったが,今後参加観察法から半構成的面接へと研究方法を変更し実施予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策今後の調査推進方策は,フォーマルな新人看護師のグループに対するインタビューを行い,質的記述的に分析していく.そのために以下の予定で調査を進める.2012年7月 研究倫理委員会申請,2012年9月 第1回調査(卒業後6か月),2012年10~11月 インタビューの音声データを文字データに変換,2012年12~2013年 2月データ分析および3月インタビューへ向けて方針決定,2012年3月 第2回調査(卒業後12か月)実習関連病院を通じて,調査対象者を公募する.その際には,本人の自由意思での参加であることを保障する.10名程度の新人看護師を依頼する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
調査のための交通費,図書・文献費,データ入力人件費,学会参加費(国内外),データ分析ソフト,識者への知的貢献への謝金等において研究費が必要となる.上記予算にて,研究を進めていく予定である.
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