研究課題
日本における人工股関節全置換術(THA)の手術部位感染(SSI)予防のための術前皮膚処置は、EBMに基づく米国疾病管理予防センター(CDC)の「手術部位感染防止ガイドライン」や日本整形外科学会による「大腿骨頸部骨折診療ガイドライン」において推奨される方法と異なる事が多い。そこで、日本のTHAにおけるSSIを最小限に抑え、患者のQOLを高めるための術前皮膚消毒方法の有効性と費用対効果を検証することとした。①CDCガイドラインに則った方法(術前日に入浴又はシャワーのみ)を実施している1施設と、②従来通り厳重な術前皮膚処置(術前日に浴室にて立位でブラッシング皮膚消毒後、患部を滅菌包布で包む。術当日に床上にて皮膚消毒)を実施している1施設の2施設において性別・年齢・BMI・既往や合併症・術式・入院日数・手術時間・抗菌薬の投与の有無と量などSSIのリスクファクターと、感染の有無・数を比較した。その結果、対象者は①149名②40名、①の施設が有意に高い項目はBMI・既往歴及び合併症・手術時間で、②は年齢・入院日数が有意に高かったもののいづれの施設も初回THAを受けた患者においてSSIは発生していなかった。また、②の施設において病棟で実施している厳重な皮膚消毒に関して対象患者10名における平均値として術前日の「ブラッシング皮膚消毒及び患部を滅菌包布で包む」ケアには看護師2名で25分間要し、術当日の「皮膚消毒」は看護師2名で11分間要した。以上、①と②の施設における術前皮膚処置方法の相違による感染率に有意差はないことから初回THAを受けた患者においては日本で従来実施していたTHAの術後SSI予防のための術前の厳重な皮膚処置を肯定するエビデンスはみられず、さらに患者への負担や消毒に関連する薬剤や物品、看護師の業務量等コストにも影響があることを鑑み、今後、早急に検討することが望まれる。
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