平成23年度からのプロジェクトは、神経難病者・家族へのスピリチュアルケアを実践する看護の実態を明らかにし、スピリチュアルケアを語ることの意味と看護の専門性についての考察を加えることを目的とした。計画では、平成23~24年度に、神経難病患者・家族が抱えるスピリチュルな問題を明らかにするために、公刊された著作物を使った文献調査と苦悩を抱える患者や家族に対する看護職の認識についてのインタビュー調査を行うこととし、実施した。これらの成果は、研究会等を活用して、現代日本の医療システムにおいて看護職がスピリチュアリティについて語ることの意味を考察し、神経難病患者へのケアにおける看護の専門性について検討を加え、国内外の関連する学会/会議において公表してきた。調査では、神経難病患者への看護に従事している看護師は、人間のスピリチュアルな領域に関する知識をほとんど持たず、自らの看護実践をスピリチュアルケアと関連づける必要性をほとんど感じていないことが明らかとなった。また、平成25年度に実施した分析では、質の高い看護が「高い専門性」ではなく「精神性」に依拠していること、「ダーティ・ワーク」と言えるような日常的なケアを提供し続けることが看護師を疲弊させていることが示唆された。 これらの研究を通して、いわゆる急性期病院で神経難病患者へのケアに従事している看護師にとっては、患者のスピリチュアルな苦悩に目を向けるゆとりはない。むしろ、患者のQOLや尊厳を守るためのマンパワーが常態的に不足していること、組織の合理化とケアの複雑性という相容れない関係が存在すること、倫理的実践が危ぶまれていることをいかに解決するかが緊急の課題であると考えた。
|