研究実績の概要 |
本研究の目的は、ALSの家族介護者(以下介護者)における心のバリアフリー化を促進するモデルの構築である。近年、神経難病のケアシステムは整備され、患者ケアのアウトカムは蓄積されてきたが、ALSの介護者は「介護だけの自分」になり、食事を味わうことも、外出へも罪悪感をもつ傾向にあった(村岡,2009)。もし、介護者のニードが誰からも振り向かれず、病気だけが記憶に刻印されるとき(Steinglass,1988)、介護者の心理社会的ストレスは増大する。本研究は、ALSの罹患歴が数年から約10年、約30年の患者の介護者7名へインタビューを実施した。研究期間中のALS患者の経年的変化と療養環境も追跡した。数年~約10年になる患者の療養介護では、外部サービスを導入して1週間のスケジュールが組み立てられていた。しかし、なかには外部サービスの利用が、1週間に1回2時間程度の人もいた。ほぼ全員が、外出のためだけにヘルパーを頼むことに抵抗感を示した。また、夕方から夜の時間帯のヘルパーの利用はほとんどなかった。この時間帯は、家族だけで集うことに意義があった。要介護度5のALSの場合、たとえば保清ケアにおいて訪問看護とヘルパーの入る時間を30分重ねることで効果的な利用になった。数か月に一度のレスパイトケアは、介護者にとって「解放感に浸れる時間」であった。一方、最近2か月間外出していない介護者では「社会から隔離されている感じ」があると語った。家族介護では、ときには自分を介護からクールに切り離す態度やその時間が必要になる。しかし病気の特性上、それは困難感を伴う。Kahnら(1980)が高齢者ケアで提案したconvyモデルは、家族支援から専門職支援へ拡大するものだ。ALSの場合、家族介護者に替わる外部サービスでは充足できない状況や、複雑な心理社会的問題をアセスメントする指標やシステムが重要である。
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