研究課題/領域番号 |
23593281
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
兒玉 英也 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30195747)
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研究分担者 |
篠原 ひとみ 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80319996)
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キーワード | 妊婦 / 心拍変動 / 自律神経系 / 睡眠障害 / 夜間低酸素症 / 心拍変動バイオフィードバック |
研究概要 |
今年度は、昨年度に収集した妊婦160例の心拍変動の周波数領域解析値と睡眠に関する主観的データ(睡眠の長さ、睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問票、PSQI)、日中の眠気(エプワース眠気尺度、ESS)、いびきの有無とむずむず脚症候群の症状)の詳細な分析を行った。その結果、過度な日中の眠気群(ESSスコア>9点)に、LF/HF比LF補正値の有意な上昇が認められた。また、習慣的いびき群(1週間に3夜以上)は、LFパワーLF/HF比、LF補正値に有意な上昇が認められた。重回帰分析から、習慣的いびきのLF/HF比並びにLF補正値への影響は、交絡変数によらない独立したものと考えられた。習慣的にいびきをかく妊婦では、安静時の心臓の自律神経調節機能は交感神経優位の状態にシフトしていると考えられた。以上の結果を論文にまとめ International Journal of Gynecology & Obstetricsに投稿し、掲載に至った。 このような研究結果から、妊婦の安静時の自律神経機能が交感神経優位となる背景に、妊娠に伴う生理的な気道狭窄等の影響に起因した夜間の低酸素症(睡眠時無呼吸)の存在が示唆された。そこで、妊婦の低酸素症と妊婦の自律神経機能との関係を具体的に明らかにするため、妊婦の夜間の動脈血酸素分圧の変化をモニターし、心拍変動の周波数領域解析値との関係について分析することとした。今年度中に、約30例の妊婦のデータが集積されており、次年度に分析を行う予定である。 また、心拍変動バイオフィードバックにより、副交感神経の活性化が可能かどうかについて、パイロットスタディを行った。ボランティアの褥婦に、ストレスイレーサーを用いた心拍変動バイオフィードバックを3週間行ってもらい、自律神経への影響を検討した。現在まで、10例のデータが集積された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、妊婦の心拍変動解析による自律神経機能の評価を行い、交感神経系の緊張状態と妊婦のQOL(睡眠・覚醒リズム、身体症状の有無、メンタルヘルス)との関係を明らかにすることが第一の目的である。また、交感神経系の緊張状態が過剰な妊婦に対して、心拍変動バイオフィードバックのプログラムを履修してもらい、そのことにより自律神経活動が修復できるのか、またその妊婦のQOLのに有益な結果がもたらされるのかを、検証することを第二の目的である。 昨年度の研究により、第一の目的である妊婦の自律神経機能と睡眠障害やうつ傾向等のメンタルヘルスの障害の関係について、基礎的な知見が得られたと考えられる。予想に反して、精神的ストレス尺度と妊婦の自律神経機能との間に有意な関連は認められなかった。一方で、妊婦の自律神経機能といびきについて、有意な関係が存在することが明らかとなった。これまで、一般集団の睡眠時無呼吸の患者に於いて、日中の自律神経活動が交感神経優位にシフトすることが報告されている。したがって、妊婦の自律神経系が交感神経活動優位となる要因として、潜在的な睡眠時無呼吸による夜間の低酸素症が存在する可能性が考えられる。以上の結果を海外雑誌に投稿し、公表できたことは、本研究の大きな成果である。また、具体的に妊婦の夜間の低酸素症の実態を解明し、日中の眠気やQOL、自律神経機能への影響を明らかにするため更なる研究が継続して行われている。 第二の課題については、妊婦のメンタルヘルスの障害と自律神経機能との関係について有意な関連がみとめられなかったことから、心拍変動バイオフィードバックをどのような対象に行うべきかという根本的な問題に直面している。まず、パイロットスタディを行い、その応用の可能性についての基礎的なデータの収集を行ったところである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、妊婦の夜間の低酸素症の実態を明らかにするとともに、それと妊婦のメンタルヘルスと自律神経機能との関係について分析し、妊娠末期の妊婦の自律神経機能が交感神経優位に傾く要因を、さらに明らかにしたいと考えている。これまで妊婦の夜間の動脈血酸素分圧と日中の心拍変動に関して30例のデータが集積されており、もう20例ほどのデータを集積してから分析を行い、その結果を論文公表したいと考えている。 また、心拍変動バイオフィードバックにより実際に対象の日常の自律神経活動を副交感神経優位の状態に誘導させることが可能かどうかについて、パイロットスタディのの結果を分析し、今後の研究の方向性を模索したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今回、研究の最終年次を迎え、論文作成(英文翻訳、論文投稿)経費、並びにデータ分析に伴う消耗品の経費が主たる使用目的である。
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