母乳不足感は人種・経済状況・地域に関係なく世界的に母乳育児の早期中断と、不要な人工乳の補足を行わせる要因として世界共通の問題である。その要因には種々あるが、母親が児のサインを誤認識することが挙げられており、本研究では産後早期の入院中における認識と1ヶ月時での認識の変化を追跡調査し、母乳不足感との関連を明らかにした。 産後早期・1ヶ月時ともに児の「泣き」「乳房の張り」を母乳不足のサインと認識している母親は1ヶ月時に人工乳を補足している傾向がみられた。その他、産後早期の母乳不足感は体重減少率、入院中の母乳の分泌量、在胎週数の長さと正の相関関係がみられた。1カ月時の母乳不足感と関連がみられたのは入院中の母乳分泌量、入院中の人工乳の補足回数であり、母親は入院中の児の状態やそれに応じた病院でのケア内容に退院後も影響を受けることが明らかとなった。また、協力者の背景による差がみられたのは母乳育児の経験であり、過去に完全母乳育児を行った経験がある経産婦は、初産婦、前回は母乳育児が成功しなかったと考えている経産婦と有意に母乳不足感の得点が低かった。母乳育児には自己効力感や自信が影響することは先行研究でも明らかとなっている。成功体験は母親の自信につながることから、本研究でも同様の結果が得られた。しかし、前回の経験があっても母親自身が経験をどう受け止めているかによって、不足感を強く感じ、不必要な人工乳の補足や早期の中断につながるため、経験内容とそれに対する母親の受け止めを理解した関わりが重要となる。また、授乳を求める児のサインを母親が理解できるための情報提供は重要であるが、「乳房の張り」のように退院後に大きく変化する身体的な項目を重要視している場合は、退院後の変化も含めて教育するなどの具体的な指導が重要であることが示唆された。
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