本研究の目的は、妊娠期から産褥期にかけての女性の認知機能、特に記憶や注意の変化とその関連要因を明らかにすることである。認知機能は個人差が大きいため、今回は妊娠期から産褥期までの認知機能と関連要因を縦断的に調査した。 日本語を母国語とするローリスクの妊婦を対象として、妊娠初期、妊娠中期、妊娠末期、産褥早期、産褥1ヶ月の各時期に視覚性記憶、言語性記憶、注意・集中力のテストを縦断的に行い、同時にエジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)や睡眠時間、産科異常などの関連要因の調査を行なった。 妊娠初期をベースラインとして、妊娠中期、妊娠末期、産褥早期、産褥1ヶ月での認知機能の変化をみたところ、視覚性記憶、言語性記憶、注意・集中力のいずれにも、妊娠期から産褥期での明らかな低下はみられなかった。また、これらの記憶や注意のテスト結果と、エジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)得点、睡眠時間等との関連はみられなかったが、分娩時の異常があった褥婦については、産褥早期および産褥1か月で注意・集中力が低下する傾向にあった。 今回の結果から、客観的なデータとして、出産前後に記憶や注意の明らかな低下はみられないことを示したたことで、マタニティサイクルにある女性の記憶や注意に関する不安の緩和に役立てられると考える。ただ、分娩時の異常などにより、産褥期に一時的に注意力の低下がみられる可能性があり、産後の女性に対しては、分娩の状況など個別性に配慮した注意深い看護が必要である。
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