研究課題/領域番号 |
23593361
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研究機関 | 西南女学院大学 |
研究代表者 |
飯野 英親 西南女学院大学, 保健福祉学部, 教授 (20284276)
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研究分担者 |
原山 裕子 西南女学院大学, 保健福祉学部, 助教 (50593571)
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キーワード | 小児遺伝看護 / 染色体異常 / 精神的苦悩 / 心理過程 |
研究概要 |
本年度は以下の目的に沿って研究を推進した.1)精神的経過に沿った母親のケアニーズの分析を行う.2)どの時期にどのような精神的変化が起こり,その時に母親にどのようなケアが必要なのかを明らかにする.母親の概要は平均年齢35.7歳(25-47歳).子どもの染色体異常はプラダー・ウィリ症候群4名,13トリソミー1名,家族性18p-症候群1名, Wolf-Hirschhorn症候群1名,Ehlers- Danlos 症候群(血管型)1名.心理過程では,8名全員に「ショック」の心理反応が出現した.不安反応は5名(63%)で最多だった.しかし,否認3名(37%),怒り(13%)と頻度は少なかった.それ以外に,自責の心理が3名(37.6%)みられた. 同じ染色体異常によっても合併症に対して外科的治療が必要なケースと,内科的に治療するケースではケアニーズが異なっていた.プラダー・ウィリ症候群のように大多数が内科的治療であっても,成長ホルモン(GH)療法や糖尿病のインスリン療法に対する内科的イベントに相関して,母親のネガティブな心理(悲しみ・不安)は増加していた.これに合わせて,親管理のGH注射法,インスリン自己注射法の手技取得に対する教育的看護介入が必要だった. また,悲しみの感情は出生後から2-3年経過しても消失しないことが確認できた.4名(50%)の母親は,医療者や教育者,親の会の同僚に,今までの経過や子どもの状況を話すごとに,悲しい気持ちになるという返答が5年近く続いていた.4名いずれも,カウンセリングは未経験の母親だった.このことから,悲しみの感情に対する,早期のカウンセリングの必要性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対象者を「出生前診断の有無」「疾患の自然暦による予後良好群(報告された寿命が約10年以上)と不良群(10年以下)」に分類し,母親の心理反応の出現時期と強弱,持続期間を分析することを重要な目的と位置づけている.そのため,対象者確保が重要だが,協力を得られても面接日程が合わず,データ収集に時間を要している. 対策として,新たに日本プラダー・ウィリ症候群協会の管理者と連絡を取り,対象者紹介と一部の研究協力の同意を得た.本年度も,データを積み重ねて結果の信頼性を向上させる. 予算執行も次年度への繰り越しは必要なく,執行計画の大きな変更はなかった.
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今後の研究の推進方策 |
対象者の確保に努めながら,稀な染色体異常児を養育する母親の診断時(とくに出生前診断例に注目する)から幼児期までの精神的変化(ショック,否認,悲しみ,怒りなどの否定的心理反応と希望などの精神的再起や喜びの肯定的心理反応の両方)について分析を進めていく. 目的達成を困難にするのは,対象となる母親の確保であるが,西日本地区での対象者確保に努めている. また,母親と医療者が抱く遺伝用語に対する感情が異なることが原因で,母親の不安感情が増幅するような事例を経験した.そのため,遺伝用語に対する感情変化についても,合わせてデータを収集する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
対象者確保のためのインフォームドコンセントとその面接調査旅費を予定している. 面接データ記録の整理,半構成的面接データの逐語録作成,対象者への電話による補足インタビューのため研究補助者の雇用経費を予定している.また,成果発表を行うための国際学術集会への参加も計画している.
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