研究課題/領域番号 |
23593391
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研究機関 | 三重県立看護大学 |
研究代表者 |
脇坂 浩 三重県立看護大学, 看護学部, 准教授 (80365189)
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キーワード | 感染症対策システム / 高齢者介護施設の感染症対策 |
研究概要 |
平成25年度は、高齢者介護施設における感染症対策の実際や課題を抽出できれば、医療施設と保健福祉関係機関が連携した感染症対策システムを構築するための一助となると考え、高齢化率が全国平均値にあるA県の高齢者介護施設を対象に、感染症対策の実際と課題を調査した。 A県の特別養護老人ホーム(140か所)と介護老人保健施設(66か所)を対象に、平成25年3月~8月に感染症対策に関するアンケート調査を行い、81施設(39.3%)から回答を得た。感染症対策としては、マニュアルの整備(100.0%)、感染症対策委員会の設置(95.1%)、職員研修(84.0%)が高率に実施されていた。感染症対策で不十分と考えられる内容としては、職員教育(56.8%)、感染症発生に備えた訓練(42.0%)が高い割合を示した。インフルエンザワクチンは職員に高い割合(98.8%)で接種されており、入所者に接種していない施設はなかった。インフルエンザのアウトブレイクを毎年認める施設は特別養護老人ホームの1.8%、認める年も認めない年もあるとした施設は、特別養護老人ホームの29.1%、老人保健施設の56.0%を占めた。ノロウイルスのアウトブレイクを毎年認める施設はなかったが、認める年も認めない年もあるとした施設は、特別養護老人ホームの30.9%、老人保健施設の40.0%に上った。 2009pdm(A/H1N1)や2012年のノロウイルスの流行を受け、高齢者介護施設では感染症対策の体制整備が進んでいる。しかし、インフルエンザやノロウイルスのアウトブレイクは約3~5割の施設で認められていることから、高齢者介護施設では、これらに対応できる体制づくりや教育が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「医療施設と保健福祉関係機関が連携した感染症対策システムの構築」と「保健師のための感染症対策専門相談員教育課程の構築」をテーマとしている。 これまで、都道府県庁と市区型保健所における感染症対策の実際と課題、高齢者介護施設における感染症対策の実際と課題に関する調査を実施した。その結果、都道府県庁と市区型保健所、高齢者介護施設において、保健師や看護師といった看護専門職がリーダー的な役割として感染症対策を担っていることを明らかにすることができた。また、感染症対策を担う看護専門職において、非常に苦慮している感染症対策の業務が少ないことから、これらの保健福祉関係機関において感染症対策における情報伝達や相談などの連携が円滑にとれていることが推察された。これらに加え、高齢者介護施設においてインフルエンザやノロウイルスなどのアウトブレイクが発生していること、保健師においては結核や新型インフルエンザ等の研修ニーズが高いことも明らかにすることができた。しかしながら、都道府県庁と市区型保健所の保健師や高齢者介護施設の看護師に、感染症対策の専門家が不在であることから、感染症のアウトブレイクを迅速に適切に対応するのは困難であると考えられた。また、これらの保健福祉関係機関において、感染症対策に関する研修ニーズ(教育ニーズ)も充足されていないと考えられた。感染症対策のアウトブレイクの対応や感染症対策の研修ニーズの充足のためには、医療施設に在籍する感染症対策専門家や感染症対策チームの協力が必要であると考えられた。 よって本年度は、これらの研究成果をもとに、医療施設の感染症対策チームが保健福祉関係機関の感染症対策担当者と連携するために必要な要素を見出すこと、また、地域の感染症対策を担う保健師の研修ニーズに沿った教育課程ついて調査を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
保健福祉関係機関の感染症対策に関する調査結果を、「都道府県庁と市区型保健所における感染症対策の実際と課題」「高齢者介護施設における感染症対策の実際と課題」というテーマで論文を2編作成し、環境感染誌(日本環境感染学会発刊)に投稿する予定である(平成26年4月・5月に初回投稿)。その2編の論文を、平成26年度中に本誌において掲載を目指す予定である。 本年度は、平成26年6月から8月にかけて、これまでの研究成果をもとに、都道府県庁と市区型保健所の保健師、医療施設で感染症対策を専門とする看護師(感染管理認定看護師など)に面接調査を行う予定である。その面接調査結果と先行研究を参考に、医療施設の感染症対策チームが保健福祉関係機関の感染症対策担当者と連携するために必要な要素と地域の感染症対策を担う保健師の教育課程を質的に分析し、平成27年2月開催の日本環境感染学会総会の一般演題として報告する予定である。この演題報告を機会に様々な知見や意見を取入れ、平成27年3月末までに学術誌に論文を投稿する予定である。 第5回感染管理看護研究会(平成26年11月開催予定)において、研究代表者が医療施設の感染症対策専門看護師(感染管理認定看護師など)と、「医療施設と保健福祉関係機関が連携した感染症対策システムの構築」について、意見交換や討議がおこなえるワークショップを担当する予定である。そのワークショップでは、医療施設の感染症対策専門家や感染症対策チームがどのように保健福祉関係機関と連携していくべきかを話題の中心にして討議する予定である。そのワークショップの内容を記事にまとめて、感染管理看護研究会誌に投稿する予定である(平成26年12月)。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者との打合せなどの日程を集中させ、移動距離を極力少なくしたので、支出を抑えることができた。また、研究データの集計や分析などに係るパソコン関連機器の購入も必要最小限にしたため、支出を抑えることができた。それに加え、研究成果の発表や論文に係る費用は、主に平成26年度に予定していることも理由の一つである。 保健福祉関係機関の感染症対策に関する調査結果を分析して、論文2編作成し、環境感染誌(日本環境感染学会発刊)に投稿する費用として、375,640円を予算として計上する。都道府県庁と市区型保健所の保健師、医療施設で感染症対策を専門とする看護師の面接調査に係る費用(インタビューの分析に関する備品、旅費、謝金を含む)として、1,000,000円を予算として計上する。その研究成果を国内の学術集会・学会誌で報告する費用として、400,000円を予算として計上する。医療施設の感染症対策専門看護師と看護研究会で意見交換を行い、その内容を看護研究会誌に投稿する費用として、400,000円を計上する。
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