本研究の目的は,高機能広汎性発達障害(high-functioning pervasive developmental disorders:HF-PDD)の24時間にわたる自律神経活動の変化を明らかにすることである。 コントロールである定型発達群では,交感神経活動は身体の活動に合わせて昼間活性化し,夜間は沈静化しており,明確なサーカディアンリズムを有していた。相対的に副交感神経活動は夜間睡眠中に活性化し,昼間沈静化していたが,睡眠の数時間前から活性化し,深夜最大となり,早朝には徐々に低下していた。また,昼食後に副交感神経活動が活性化する対象者があおり,二峰性のリズムを持つ者もいた。 本研究は,HF-PDD患者は,覚醒中は常に緊張状態にさらされており副交感神経活動が抑制されているとの仮説に基づいている。HF-PDD患者より得られたデータからは,HF-PDD患者においても昼間は交感神経活動が活性化し,夜間は副交感神経活動が活性化し,サーカディアンリズムを有してはいることが明らかになった。しかし,昼食後の休息など覚醒はしているがリラックスした状態での副交感神経活動の活性化は観察されなかった。サーカディアンリズムはあるものの,睡眠時においても心拍は速く,副交感神経活動の各指標は健常者に比べて極めて低く,HF-PDD患者では副交感神経活動が全体的に低下している可能性が示唆された。この睡眠中も持続する副交感神経活動の低下が,慢性の疲労状態によるストレス反応なのか,それとも発達障害そのものによる副交感神経活動の機能低下なのかは,今後の課題である。
|