研究課題/領域番号 |
23593471
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
松下 年子 埼玉医科大学, 保健医療学部, 教授 (50383112)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 新卒新人看護師 / SOC(sense of coherence) / 首尾一貫感覚 / 看護部卒後研修 / 離職率 / 育児 / 母親 |
研究概要 |
21病院518名の新卒新人看護師を対象に、SOC(首尾一貫感覚)および気分状態、職場適応、自律性等の入職後の経緯を自記式質問紙調査にて評価した。その結果、対象看護師のSOC平均得点は入職時が最も高く、その後4か月後と8か月後と低下すること、一方、看護専門職における自律性尺度得点は全体的に入職時から4か月後にかけて低下し、8か月後で高くなることが示された。さらに、入職当初の緊張や興奮は入職後4か月では低下し、それとともに抑うつ感や不安感も低下するが、8か月後時点ではそれらが再燃、特に抑うつ感がピークとなり、それに伴って身体的感覚である疲労感も自覚されてくることが示された。 次に、3病院87名の新卒新人看護師を対象にSOC向上プログラムを実施し(入職後2、5、10か月時点)、上記と同内容の縦断的質問紙調査を行った。SOC向上プログラムの講義テーマは「看護師の心の強さとしなやかさ」「SOCと健康生成論」「キャリアアップと資源」とし、グループワークのテーマは「今の体験を振り返る」「臨床で経験したことの意味づけ」「困難に感じたことの検討」とした。なお、毎回のプログラム終了時の質問紙調査結果を質的帰納的に分析した結果、介入期間を通じた共通主要カテゴリとして、「(新人同士で)話すこと・話を聞くことがよかった」「体験の共感・共有」「自分だけではないことの確認」「皆も同じ気持ちであることを知って安心する」等が見いだせ、介入毎の推移(特徴)として、1-2回目の「リフレッシュした」というカテゴリが3回目には「語りが考え方と気持ちを変える」に、1-2回目の「頑張ろうと思う」というカテゴリが、3回目には「自己の成長や頑張りの確認」に変化することが把握された。 最後に、育児中の母親を対象としたSOC追跡調査の結果からは、妊娠から出産後1年までのSOC高値が出産後3年目まで維持されることが掌握された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は調査の実施回数、時期、対象看護師の人数、参加率等において、当初の計画通りに進んでいる。施設及び本人の同意が得られた新卒新人看護師を、SOC向上プログラムの介入群と非介入群の2群に区分し、両群のSOCおよび気分状態、自律性等の推移を追跡中であるが、非介入群の一部の施設を除き、ドロップアウト率は非常に少ない状況である。一方、プログラムの効果や有用性を評価するために、介入群に対してはプログラム介入の度にアンケート調査を実施しているが、これも対象者および調査補助者等の協力をもって、滞りなく進んでいる。 次にSOC向上プログラム(介入)そのものであるが、対象看護師からはもちろんのこと看護部からも高い評価を得ており、物理的事情で介入継続が不可の1施設以外は、2年目も引き続き介入を実施してほしいという依頼(調査協力の同意)を得ている。 最後に、育児中の母親を対象としたSOC縦断調査については、震災の影響等を受けて住所不明になった者やドロップアウトした者が出現し、4年前に調査をスタートさせた当初より対象者数は半減している。しかし、辛うじて200名を維持しつつ現在続行中である。
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今後の研究の推進方策 |
新卒新人看護師を対象としたSOC追跡調査は、2年目も順調に遂行可能と考える。ドロップアウト率をできるだけ低く抑えるために、対象者にはこれまでの結果を簡潔に伝えるなどの工夫を図る予定である(配布する質問紙の冒頭に、これまでの結果概要を加筆する)。 SOC向上プログラムの介入調査については、2年目はプログラムを2回実施する予定であるが、プログラムの内容そのものをさらに充実させるために、SOCおよび継続看護教育に関する文献リサーチを積極的に進めていく予定である。また、介入プログラムの充実という観点からは、その背景として新人看護師対象の教育や研修がどのように行われているのか、看護部の体制等が非常に重要である。それゆえに、離職率の比較的低い病院看護部の教育担当責任者を対象に、卒後教育・研修の体制や方針・工夫等の実態についてインタビュー調査を実施する予定である(平成23年度より予備調査を開始)。得られた知見を介入プログラムの内容に反映していくことで、プログラムをさらに洗練化させていく。 次に、育児中の母親を対象としたSOC縦断調査に関しては、ドロップアウト者がこれ以上出現しないように、住所変更等に関しては一報をいただきたい旨を伝えるなどの工夫を図る。母親のSOCが妊娠時より4年間も高値を維持しているという所見は大変貴重であり、このメカニズムを解明するために、補完調査として、少ないサンプル数の母親・父親のペアを対象としたSOC縦断的調査を行う(平成23年度より予備調査を開始)。母親だけでなく父親のSOCの推移を明らかにするとともに、両者のSOCがどのように連動していくのかを分析する。それをもって、親業がSOCに及ぼす影響の全体を掌握していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
SOC向上プログラムの内容充実を図るための補完調査として、離職率の比較的低い病院看護部を対象としたインタビュー調査を、また、育児中の母親を対象としたSOC縦断調査の補完調査として、少ないサンプル数の母親・父親のペアを対象としたSOC縦断的調査を実施する。したがって、それに伴う経費、具体的にはインタビュー及び質問紙調査協力者に支払う謝金等が派生する。それ以外は平成23年度(1年目)と同様、SOCプログラムの介入群および非介入群に対する質問紙調査をめぐる経費(郵送費が主体)、プログラム実施に伴う経費(研究者及び研究協力者の交通費が主体)、研究成果発表のための経費が必要となる。
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