研究課題/領域番号 |
23593472
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
出口 禎子 北里大学, 看護学部, 教授 (00269507)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 学童疎開 / 戦争体験 / 心的外傷後ストレス障害 / 集団疎開 |
研究概要 |
私たちは10年以上にわたり、20人以上の戦争体験者に聞き取り調査をしてきた。彼らは現在70代後半となり健康問題を抱えている人もいる。今年も体調に考慮しながら1時間から1時間半程度の聞き取り調査を行った。学童疎開の経験者は共通して「いじめ」「慢性的な空腹感」「寂しさ」などの体験を有している。しかし詳しく聞いてみると、これらの体験以外にその人固有の傷つき体験があり、この体験の方が戦後の生活と生き方に大きな影響を与えていることが分かった。一般に生存者が死の不安と生き延びた罪意識から身を守るために示す反応は、感情の機能を停止することであると言われている。実際に多くの戦争体験者が、長い間、心を閉ざし「内なる自我」を守って生きてきた。しかし病気や亡くなる人が増え、このままでは戦争孤児の体験はなかったことになってしまうという思いから、「真実を語ろう」と話し合っているという。戦後60年以上の時を経て、ようやく犠牲を使命に変化させていく過程、精神的再形成(R.J.リフトン1968/2009)の段階に至ったと考えられる。また太平洋戦争の童疎開中に東京大空襲で戦争孤児となった人たちは、死の不安や飢餓感などの体験に加え、戦後は保護者のいない悲惨な人生を生きてきた。中には、信頼していた大人に孤児という立場を利用された絶望感を体験した人もいる。追いつめられた状況で反社会的な行動もしたというひとは、その後ろめたさから長い間、口を閉ざしてきた。しかしやっと自分の経験を語り始めた人たちも、自然災害や諸外国の内戦の報道を見ると今でも心が緊張するという。次年度も、太平洋戦争中に東京大空襲をはじめ、さまざまな戦争体験をしてきた人たちにエピソードを聞き取り、その経験が戦後の人生に与えた影響を心的外傷の観点から考察したいと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究活動の目標は、太平洋戦争時の学童疎開中に両親や保護者を亡くし戦争孤児となった人たちで作る「戦争孤児の会」に関して情報収集をすることと、研究の主旨を伝えて研究協力の承諾を得、聞き取り調査を開始することであった。今年度は2人の聞き取り調査を行うことができた。聞きとり順調であるが、逐語録の作成が追いついておらず課題である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで連携してきた疎開学童連絡協議会、戦争孤児の会の他、あらたに東京大空襲関団体や平和を考える会など、各地にある小さな活動組織を訪問して研究協力の依頼を行う。聞き取り調査への協力者を募り、地道に研究参加者を増やす。昨年度の聞き取りデータがあるので、それらのテープ起こしと逐語録作成を行い、研究連携者とともに、情報の読み合わせを行う。そのための時間を確保することも課題である。
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次年度の研究費の使用計画 |
関連著書、パソコンのインク、印刷用紙など消耗物品の購入、聞き取り調査の協力者への謝礼の他、研究連携者との打ち合わせ、交通費、会議費など。関連学会への参加費、宿泊・交通費など。またテープ起こしと逐語録の作成は研究者本人が行うが、聞き取り調査が重なった時には業者に依頼する。
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