本研究は、おもにウラン核分裂などで生成される高エネルキー不安定核ビームに対して、できるたけ多くの荷電変換反応断面積を精密測定し、これらの原子核中の陽子分布に対する半径「陽子半径」を決定することを目的としている。荷電変換反応から原子核の陽子半径を導出する方法は、我々独自のアイディアによる。高エネルキー重イオン反応は入射核と標的核の中の核子同士の反応の和で表されるため、荷電変換反応は入射核の陽子と標的核が反応する確率か最も高い。我々はすでにクラウバー理論を改良し、荷電変換反応から陽子半径を導く方法を得た(PRLにて発表済み)。不安定な原子核の陽子半径はこれまで唯一、アイソトーフシフトの観測によってのみなされてきたが、生成量の多い、安定線に近い原子核だけであった。本研究によって、広範囲に不安定核の陽子半径を決定し、中性子過剰不安定核の殻構造の変化を系統的に議論することができる。H24年度は放射線医学総合研究所において本研究の方法を中重核に適用し、その一般性を検証した。実験では、核子当り500MeVのエネルギーを持つ56Feおよび70Geの1次ビームから2次ビームを80種類以上(ArからGe同位体まで)生成し、その荷電変化反応断面積を精密測定した。荷電半径が既知である核種(不安定核を含む)に対して、荷電半径と荷電変化反応断面積の相関を調べたところ、軽い核で得られた結果と同様に、数%の精度で断面積から半径を導出できることが分かった。また、本測定で使用予定の傾斜薄膜型イオンチェンバーを製作しビーム試験を行った。その結果、分解能1%というよい結果を得ることが出来た。以上の成果はEMIS2012国際会議に於いて口頭発表した。
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