研究課題/領域番号 |
23600005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
熊谷 純 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20303662)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高選択的ラジカル-ラジカル反応 / 疑似星間塵表面 / 極低温化学反応 / 固体水素 / 電子スピン共鳴法 / 紫外線 / 放射線 |
研究概要 |
暗黒星雲の星間塵表面にできていると予想される固体水素内でのラジカル-ラジカル反応の基礎的データを得るために、極低温(4.2 K) の固体水素内に水素原子とメチルラジカルを導入し、両者の反応について検証した。極低温の固体水素内では、水素原子が固体水素の格子である水素分子とトンネル機構によって引き抜き反応を起こすことにより、固体水素内を拡散することが知られている。水素原子同士あるいは水素原子とメチルラジカル同士はお互いラジカルであるので、その両者が出会えばその反応障壁は0であるから、水素原子の拡散律速で両者の反応が進行すると予想した。しかし、水素原子の減衰は確認できたもののメチルラジカルは反応開始後20 h経っても一切減衰しなかった。水素原子の減衰を速度論的に解析してみると2次反応で進行しており、水素原子同士のラジカル-ラジカル反応だけが選択的に進行したことがわかった。なぜ、水素原子とメチルラジカルは反応しないのか? それを探るために、水素原子同士、水素原子と水素分子、メチルラジカルと水素原子、メチルラジカルと水素分子同士間の安定化エネルギーについて、その両者の距離の依存性をUQCISD(T,E4T)/6-311++G(3df,3pd)レベルで計算して比較した。その結果、水素原子同士はどの距離においても最も大きく安定化したが, 4 Åより長距離の範囲ではメチルラジカルと水素分子の安定化エネルギーの方がメチルラジカルと水素原子間のそれより大きく、その差は最大で40 Kとなった。従って、水素原子は4.2 Kの固体水素内を拡散してきてメチルラジカルのある程度近くまで来ても、このバリアのために近づくことができず、ラジカル-ラジカル反応が起こらなかったと解釈される。この結果は、溶液化学における無極性溶媒中の溶質の凝集と分散のルールにも適用できることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の実施計画ではエアロゲルを星間塵のコアに見立てて水素を導入してその表面に吸着させ、生成するであろうH6+等の収量についてしらバルト記述した。この実験はエアロゲル表面にヨウ化メチルを吸着した後、水素を吸着させて紫外線照射並びにγ線照射によってどのような活性種ができてくるか、それらの反応はどうなるかを検討した。その結果、H6+の収量がコアがない場合と比較して数倍増えていること、メチルラジカルは大部分がヨウ化メチルのクラスター内にできるが、γ線照射によって固体水素内に入り込むこと、メチルラジカルと水素原子は反応しないことを見出している。昨年度の成果欄には当初の目的に加えて固体水素内でメチルラジカルと水素原子が反応しないことについての新規発見について詳しく述べたが、それ以外にもコアの導入によるH6+の収量の変化を観測できており、当初の計画は概ね達成できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
暗黒星雲の星間塵表面は10 K程度と非常に低いため、固体水素が表面にあれば今年度わかったような高選択的ラジカルラジカル反応が起こると考えられる。従って、その溶質となるラジカル分子の種類を極性に依存してかえることにより、どの時点からラジカルラジカル反応が進行するようになるのかを確認していきたい。また、これまで固体水素内に導入が難しかった多くの分子を疑似星間塵コア表面に吸着させた後、紫外線やγ線のエネルギーをそのコアが吸収することによって吸着分子が入っていくことができるのかどうか、種々の分子で確認していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、液体ヘリウム購入料金・測定用デュワーなど消耗品の購入や修繕、その他試薬・ガスの購入に充てる。旅費としては、国内学会(3つ)への出席・発表に用いるほか、共同研究者への旅費の補助並びに情報交換や打ち合わせのために使用する。昨年度の成果も間もなく論文投稿することになっており、その投稿費用に充てる。この他、必要に応じて専門知識を提供してくれた方への謝礼も計上する。
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