研究課題/領域番号 |
23600005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
熊谷 純 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20303662)
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キーワード | 極低温反応 / H6+水素分子イオン / 疑似星間塵 / Vacancy / 量子拡散 |
研究概要 |
暗黒星雲中の星間塵を構成するdust grainの主成分であるシリケートの代わりにシリカゲルを用い,その周りのマントル部分に固体パラ水素を充填して液体ヘリウム温度まで下げて疑似星間塵を作成し,宇宙線の代わりにコバルト60からのγ線を照射して,生成するH6+イオンの生成量について電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定して検討を行った.H6+は当研究室で世界で初めて分光学的に発見した水素分子イオンであり,2011年にはオリオン座の赤外スペクトルが(HD)3+のものと良く一致しているとの報告もあり,宇宙における化学反応において重要なイオン分子となり得る可能性を秘めている. 4.2 Kにおいて試料にγ線を照射した結果,H6+はシリカゲルがない場合と比較して40%収量が増加し,その減衰挙動は,照射直後に早いものの後半は非常に遅くなった.初期収量の増加はγ線のエネルギーがシリカゲルで吸収され,そこからエネルギー移動によってH6+が生成されたと考えられる.減衰挙動の変化については,固体パラ水素内にシリカゲル表面の影響でVacancyがに生成し,僅かに双極子モーメントを持つHDがこのVacancyを使って量子拡散してシリカゲル表面に集まり,そこでH6+と同位体置換反応を起こしてESR信号が見えなくなったことが初期の速い減衰の理由と思われる.一方,後半の遅い減衰は,シリカゲル表面から固体パラ水素中を拡散したH6+が,HD濃度の下がったパラ水素中にいるためと思われる. 本研究の結果は,照射宇宙線のエネルギーを星間塵のdust grainが吸収してマントル側へ移動して活性種の生成させることに寄与していること,dust grain表面の影響によるvacancy生成がマントル内部の分子の拡散に大きな影響を当てていることがわかり,純粋な固体内での反応と大きく異なることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度研究開始前後において,3月末から4月中旬,また9月中旬から10月上旬にかけて,居室のある建物の改装工事が行われたため,実験室及び居室の2回の引っ越しを余儀なくされ,仮住まい中の場所では実験の不便も強いられた.その結果,当初考えていなかった実験装置やサンプルの破損が相次ぎ,研究の進行がやや遅れ気味になっている.
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今後の研究の推進方策 |
H6+の生成や減衰挙動については,シリカゲル表面のアモルファス水の電場の影響について調べていく. また,活性化エネルギーのバリアが殆どないラジカル―ラジカル反応においては,固体パラ水素中ではHとHが反応してH2になるもののH+CH3がCH4になる反応は進行しないことを当グループで発見している.このことが,シリカゲル表面によるVacancy生成によって反応するように変化するのかどうか,極性ラジカル分子(例えば,CH2OHなど)とでは反応するのかどうか,その反応を決めてているファクターを探していく.同様にCO分子からH付加を経たHCOやH2COHの生成とそのメタノール生成にいたるラジカル中間体の反応についても,シリカゲルやその表面水の影響を調べ,疑似星間塵表面における
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次年度の研究費の使用計画 |
設備品の購入予定はない.消耗品として液体寒剤(50万円程度),γ線照射料金(25万円程度),試薬とガス購入(20万円程度),国内旅費(20万円程度),論文英文校正(5万円程度)を予定している.
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