研究概要 |
暗黒星雲中の星間塵を構成するdust grainの主成分のシリケートの代わりにシリカゲルを用い、その表面に安定ラジカルであるTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)を表面に吸着させたのち、そのシリカゲルを固体パラ水素で覆って疑似星間塵を作成した。この疑似星間塵を4.2 Kでγ線照射してH原子をパラ水素中に生成し、H原子とTEMPOとのラジカル―ラジカル反応の観測を試みた。H原子は4.2 KでもH2分子との原子トンネル引き抜き反応を繰り返すことによって固体水素中を拡散できる。本研究の先行実験により、固体パラ水素中のメチルラジカルは、H原子と共存させるとラジカル同士のバリアレス反応であるにもかかわらず全く反応せず、H原子同士が再結合する高選択的反応を見いだしていた。本研究ではその選択性の理由を探るべく、表面の極性の高いシリカゲルにH原子の約1000倍の濃度のTEMPOを吸着させてH原子の減衰を観測したが、H原子同士の二次反応による減衰しか観測できなかった。これらの結果より、H原子は4.2 Kにおいては完全にトンネル機構でしか拡散できないため、近隣にメチルラジカルやTEMPOがあってもそれらや担体のシリカゲルによって歪められた固体水素の結晶がトンネル拡散を阻み、ラジカル―ラジカル反応が進行しないと結論された。今後は、暗黒星雲中の温度に近い10 K程度の温度領域でこの実験を試みることにより、H原子の物理拡散とラジカル―ラジカル反応を調べ、極星間塵表面における分子成長反応についての知見を深めていきたい。
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