研究課題/領域番号 |
23600007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三原 基嗣 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60294154)
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研究分担者 |
松多 健策 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50181722)
福田 光順 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50218939)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 核物性 / 超微細相互作用 / 不純物 / 核磁気共鳴 / 不安定核 |
研究概要 |
β線検出を用いた超高感度核磁気共鳴法(ベータNMR法)による、固体中希薄不純物に関する物性研究を推進するためには、核スピン偏極した短寿命核(プローブ核)の生成が必要となる。飛躍的進展を遂げるため、プローブ核の元素種、偏極量、ビーム強度の劇的な増強を目指した開発研究を行った。平成23年度は、重イオン核反応による高偏極 12N(半減期 11 ms)ビーム生成と、強磁性体箔を用いた 58Cu(半減期 3.2 s) の生成テストを行った。 光触媒材料として利用されている二酸化チタン(TiO2)中の窒素不純物の電子状態研究等において、より詳細な研究を進めるために、12N 核プローブの収量の増強化を望んでいた。そのために、重イオン核反応による高偏極 12N 生成の可能性を探る実験として、14N の入射核破砕反応と、12C の荷電交換反応の2種類の核反応を用いて 12N を生成した。その結果、最適条件を選んだとき、前者においては約25%、後者は約10%の偏極ビームが高い収量で得られることがわかった。とりわけ、12C ビームと水素ターゲットの組み合わせにより、非常に高い収量が得られたため、ベータNMR測定の効率を以前よりも数百倍上げられる可能性を示したことは大きな発見である。 磁化した磁性体内の偏極電子スピンを利用し、超微細相互作用を通して核スピン偏極へと移行させる transient field 法を用いて、偏極58Cuビームの生成テストを行った。新しい偏極生成方法の確立を目指した研究である。核子当たり500 MeVに加速した58Niの荷電交換反応により、高い収量の58Cuが得られた。58Cu二次ビームを磁化したFeやNiに通過させ、ベータNMR法により58Cuの偏極測定を行った。今回は有意な偏極は観測されなかったが、今後も研究を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
窒素のプローブ核 12N を用いてベータNMRによる二酸化チタンなどの酸化物中窒素不純物の研究を推進するために、高偏極・高強度 12N 生成の可能性を探る実験を、放射線医学総合研究所の HIMAC 施設にて行った。その結果、12C ビームと水素ターゲットの組み合わせにより、偏極度約10%の12Nビームが非常に高い収量で得られることが初めて明らかになった。理化学研究所や大阪大学核物理研究センターの加速器施設においては、強度にして HIMAC の約100倍の12Cビームが期待できることを考えると、今まで大阪大学バンデグラフ加速器で行っていた12NベータNMR測定に比べ、数百倍の効率化を見込めることがわかり、当初の期待を大きく上回る結果となった。 さらに、新しい偏極不安定核ビーム生成法として、強磁性体箔を用いた transient field 法の開発にも着手した。テストに用いるプローブ核 58Cu は、放射線医学総合研究所の HIMAC 施設において十分な収量が得られ、今後の開発に使える目処が立った。磁性体箔に58Cuビームを通過させるための装置も作成し、偏極生成テストも開始した。経過はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
12N プローブの増強化に目処が立ったので、物性研究への適用を実現させる。そのために、大阪大学核物理研究センターへのマシンタイム課題申請およびベータNMR実験装置、特に低温での試料温度制御装置の改良を行う。高強度ビームに耐えうる水素(または水素化合物)ターゲットの開発も必要であることが今回明らかになったので、これを進める。 磁性体箔による偏極生成については、58Cuを用いた開発を本格的に行う。磁性体の表面処理法などが重要課題であり、十分に検討しなから推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ベータNMR用試料温度制御系の改良に向けて、温度コントローラを購入する。実験装置構築のための真空部品等、優良な単結晶試料・磁性体試料等の実験試料を購入する。その他、学会旅費、実験施設への出張旅費に使用する。
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