26年度は,非密封RI使用の実験施設で,給排気系のトラブルが原因で長期間実験室が使用禁止となり,本研究課題の多くの実験とその準備が出来ない状態となった。しかしながら,東日本大震災の影響で使用不可能となったインキュベータの代替となる装置を導入し,他の実験施設において温度制御を実現した陽電子消滅寿命測定が可能となった。この装置を用いて,水の液体構造の研究につなげるため,内部の構造が均一でなく,同様に複数の異なる構造をもつイオン液体の研究を中心に行った。その結果,オルソーポジトロニウムの消滅率の温度依存性が,通常の液体と異なり,高温で小さくなっていかないことを新たに見出した。これは,従来,水中でのみ見られた現象である。また,この消滅率は,巨視的な表面張力と多くの液体で相関が見られるものであったが,イオン液体では不均一な構造を反映し,その相関から大きくずれることが新たに明らかとなった。 ポジトロニウムは液体中ではバブルが形成する。イオン液体中では,このバブルの形成が本研究課題で実現した高計数率AMOC装置による測定で,比較的長時間かかって安定化していることが今までに示唆されていた。また,バブル形成初期の消滅率の変化から,バブルの振動が起こっていることを見出していた。26年度は,さらに,新たに導入した温度制御装置による測定において,高温ほど振動数が小さく,また,その基本振動の減衰が早いことが明らかとなった。また,基本振動が消えた後で,高調波の振動成分が残ることも明らかとなった。 振動現象は,イオン液体中のイオンで構成されている相の情報を,表面張力と消滅率の相関からのずれは,ファンデルワールス力で構成されている相の情報を反映していると考えられる。 このような新しい現象を,水の液体構造研究への応用が可能であるかは,今後検討が必要であるが,サブナノスケールの新しい動的測定手法を実現することに成功した。
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